研究課題/領域番号 |
23720394
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研究機関 | 奈良県立橿原考古学研究所 |
研究代表者 |
北井 利幸 奈良県立橿原考古学研究所, その他部局等, 研究員 (70470284)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 鎔銅技術 / 弥生時代 / 青銅器生産 / 近畿 |
研究概要 |
平成23年度は近畿地域の各遺跡から出土している高坏状土製品と金属成分付着被熱砂について検討した。高坏状土製品は奈良県田原本町唐古・鍵遺跡、兵庫県神戸市玉津田中遺跡、大阪府寝屋川市楠遺跡、大阪市長原遺跡、石川県金沢市大友西遺跡から出土している。検討した結果、外面に被熱痕跡がないこと、内面に粒子の細かい砂を貼り付けた例を確認できた。次に、金属成分付着被熱砂について検討した。金属成分付着被熱砂は弥生時代中期の奈良県田原本町唐古・鍵遺跡、弥生時代後期の奈良県桜井市脇本遺跡、大福遺跡、兵庫県たつの市北山遺跡、滋賀県栗東市下鈎遺跡、滋賀県東近江市石田遺跡から出土している。断面を観察すると表面の金属成分付着層と被熱砂層の間にガラス化した層を挾まないもの(唐古・鍵遺跡)と挟むものに分けられた。ガラス化した層は高熱を受け続けた結果できるもので、この層の有無が使用方法を考える基準となる。椀形をしたものや注口のあるものがあることから高坏状土製品の内面に貼り付けられたものが、はがれたものと考えた。ガラス化した層を挟むものは高熱を受け続ける坩堝として、挟まないものは高熱を一時的に受ける取瓶として使用されたものと考えた。以上から高坏状土製品を取瓶として使用する方法から坩堝への使用へと変化することを指摘した。 弥生時代の鎔銅技術は高坏状土製品と金属成分付着被熱砂の検討から、中期から後期にかけては炉を使用して高坏状土製品を取瓶に使用していたものから、高坏状土製品を坩堝に使用する土器炉へと変化したと考えた。 高坏状土製品がいつ成立したのか検討するため、弥生時代中期の青銅器生産遺跡である大阪府茨木市東奈良遺跡の出土遺物の再調査を行った。その結果、高坏状土製品は認められなかったが高坏状土製品に類した資料と金属成分付着被熱砂を確認した。平成24年度はこれらの資料を検討し、中期の鎔銅技術の検討を行っていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた近畿地域の資料調査、資料収集は順調に進んでいる。ただし、過去の発掘調査資料の再検討を行った結果、これまで未確認とされていた資料を確認できたため、24年度も継続して近畿地域の資料の再検討を行う必要が新たに生じてきた。再検討が必要と考えられる遺跡は、高坏状土製品が認識されていなかった時期に調査、報告された遺跡である。23年度に再検討した大阪府茨木市東奈良遺跡のほか、大阪府東大阪市鬼虎川遺跡があげられる。各種資料の性格の検討などは研究ノートとして公表することができた。24年度にはこの成果について発表予定である。
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今後の研究の推進方策 |
1.近畿地域の弥生時代中期の青銅器生産遺跡の再検討を継続して行い、並行して九州地域の青銅器生産遺跡の類例比較を行う。また、日本列島の青銅器生産の源流となった中国・朝鮮半島における青銅器生産遺物の資料収集等を行う。2.平成23年度の調査成果と24年度に実施する調査の成果とを合わせ、アジア鋳造技術史学会などで発表、公開する。また、調査成果をまとめた報告書を刊行する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は以下の項目で研究費を使用する。1.資料調査・収集のための旅費(大阪方面、九州方面など)2.学会発表のための旅費(四国方面、中国など)3.報告書作成のための印刷費
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