研究課題/領域番号 |
23720397
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所 |
研究代表者 |
丸山 真史 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 埋蔵文化財センター, 客員研究員 (00566961)
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キーワード | 骨角製品 / 動物遺存体 / 歴史考古学 |
研究概要 |
平成24年度は、昨年度に引き続き、畿内で出土している骨角製品および関連遺物の集成を行った。当初の研究計画に目標として掲げた畿内およびその周辺の集成作業が終了した。また、遺跡から出土する骨角製品の製作工程の復元および加工具の推定を目的として、実際に現生のニホンジカの骨を素材として実験的に笄を製作した。その具体的内容は、兵庫県大物遺跡から出土した笄の完成品、未成品、製作途上で排出された廃材を観察し、製作手順と加工具を推測し、それに従って笄を製作した。その結果、骨の加工痕と加工具の対応がある程度は可能であるとの確信に至った。また、遺物の観察だけでなく、実験によって素材の詳細な同定が可能になることも明らかになった。このような、遺物の観察と復元製作の実践によって、骨角製品の製作方法について、より詳細を明らかにすることができるという点で本研究の重要性が示される。 大阪市高松藩蔵屋敷跡から出土した象牙製と報告されていた角筆(かくひつ:墨を使用せず、他者には見えにくいように、筆圧で紙面に文字を書く道具)の材質調査を大阪文化財研究所に依頼して行った。実体顕微鏡による遺物の表面の観察では、鹿角あるいは牛馬骨製であることを明らかにできた。また、熊本市下江中島遺跡から出土した古墳時代の鹿角製の刀子柄、卜骨、骨鏃を観察し、その報告を行った。 動物考古学研究集会において、大阪市大坂城下町跡で出土した骨角製品の廃材をもとに、骨角製品の製作効率について発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の研究状況は、昨年度から続けて、畿内で出土している骨角製品および関連遺物の集成を行い、当初の研究計画に目標として掲げた畿内およびその周辺の集成作業が終了した。 さらに、研究計画に従い、今年度は骨角製品の製作実験を行い、出土遺物に残る加工痕と実際の製作痕の対比を行うなど、検討作業は充実したものであった。また、実験前は詳細な骨の部位・部分が不明であったものが、実際に骨角製品の製作によって明らかになった成果は大きい。従来の骨格標本との対比による材質同定と比較して、実際に同じ器種を模倣して製作することで、材質同定の精度が高まる可能性があることが判明し、研究計画時の予想以上の成果を得ることができた。 以上のように、今年度は当初の計画通りに研究が伸展し、十分な成果が得られたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、これまでに行った骨角製品に関連する遺物の集成表の整理、および今年度の骨角製品の製作実験の記録を整理する。また、今年度の製作実験を行い、加工痕の記録は、実体顕微鏡を使用した画像が必要であり、実験記録として顕微鏡写真を追加で撮影する。 最終的に、骨角製品の集成結果に基づき、器種、時期・地域性などを体系的に分類・検討し、製作実験の結果に基づき、骨角製品の製作工程、製作に使用した工具について検討する。これらをまとめ、報告書を作成する。
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次年度の研究費の使用計画 |
最終年度となる平成25年度には、畿内における骨角製品およびその製作に関連する遺物の集成データおよび、骨角製品の製作実験の記録整理を行うための補助員への謝金として使用する。今年度行った骨角製品の製作実験にともない、製作痕の顕微鏡撮影を行うために、顕微鏡用デジタルカメラを購入する予定である。最終年度であり、今回の研究成果を報告書にまとめるための参考図書の購入、また報告書印刷・製本費への使用を予定している。
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