研究課題/領域番号 |
23720406
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研究機関 | 群馬県立女子大学 |
研究代表者 |
関村 オリエ 群馬県立女子大学, 文学部, 専任講師 (70572478)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 人文地理学 / ジェンダー / 住民 / 郊外 |
研究概要 |
1年目は住民「参加」について具体的な事例により考察するために、「研究の目的」に掲げた事例研究である「千里ニュータウンにおける地域の協働管理体制」をめぐる調査研究を進めた。申請書にも記載したとおり、全国的な自治体業務の縮小化を背景に、住民による地域協働が年々活発化するコミュニニティを対象として、担い手による地域「参加」の課題を検討する調査研究である。申請者による調査研究では、多摩ニュータウンにおける協働管理体制では、自治体側からカウンターパートとしての住民側への支援は必ずしも十分ではなく、活動が個人の自助努力や世帯内の経済的余力などに任されていることが明らかになった。本研究では、行政側の公的支援の現状、NPO等非営利団体の財政状況とあわせて、性別規範や個人の経済的な制約により、住民の地域「参加」がいかに左右されるかを検討し、地域の協働管理体制の持続可能性を、ジェンダーの視点から考察することが目的であった。大規模な宅地開発・分譲に加えて、民間主体による再開発が急速に行われている千里ニュータウンであるが、近年では定住者の少子・高齢化、建造環境の老朽化、住民などさまざまな側面において過渡期に差し掛かっていると考えられる。今回の調査研究では、日本で最古の大規模ニュータウンである大阪府千里ニュータウンを事例地域として選定し、申請者が研究を蓄積してきた東京都多摩ニュータウンとの比較に加え、何よりも日本の少子・高齢化社会、経済成長の「縮小化」傾向にある社会を考えるための、先進的な住民の地域における実践を考察することを目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目の実証研究においては、地域の協働管理体制を担うNPO等非営利団体に対するアンケート調査と聞き取り調査を実施する予定であった。この調査を通して、当該団体の規模や財源確保、および各団体の人材確保に関する量的・質的データを収集し、網羅的に分析・検討することを目指した。実際には、質的データの収集(インタビュー調査)と千里ニュータウンについての統計や歴史的資料の収集までを行うことができた。そもそもNPO等非営利団体の活動資金に関しては、活動への自治体資金の十分な投入があまり見込めないうえに、欧米のような寄付金や金融機関の融資等の財源確保の手段が日本ではまだ一般的ではないことが先行研究より明らかになっている。そのため、自治体と住民による協働のまちづくりが、結果として住民への大きな金銭的な負担を強いており、住民(活動者)の経済的状況によっては不利な状況を招いていることが当初予想されていたのである。しかしながら千里ニュータウンでは、民間ディベロッパーによる再開発が急速に進んでいた。加えて、定住人口数の増加、世代の更新が緩やかに見込まれている千里ニュータウンでは住民と地元大学や、住民と民間企業等との連携も着実に育まれ、主婦・高齢者・大学生のみならず勤め人からなる多様な主体からなる組織化が各所にみられるということもわかった。このことは、自治体による住民へのアウトソーシングの拡大傾向の中で、住民への過重なボランティア労働が深刻化するこれまでのニュータウンとは大きく異なった点である。以上のような背景より、1年目は量的調査の前段階にあたるパイロット・インタビューの資料収集と検討を行うことで、千里ニュータウンでの住民と協働について再考を行う必要性が浮上したのである。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、住民の「参加」というインフォーマルな資源に依拠する地域協働のメカニズムを解明することを目的としている。こうした目的のもとに研究計画書では、二つの実証研究、a.千里ニュータウンにおける地域の協働管理体制の事例、b.千葉県八千代市米本団地における定住外国人の事例を分析し、考察することを目指している。これら二つの事例地域は、人口の少子・高齢化と文化・経済のグローバル化、総じて都市のダウンサイジング等各側面における大きな転換期にあり、住民の「参加」とそこに横たわるジェンダーの問題を考えるために重要な地域であると考えている。2年目は先述の背景のとおり、引き続き大阪府千里ニュータウンの質的・量的調査を行う予定である。千里ニュータウンでは、住民の「参加」と自治体の協働というテーマの調査過程において、(1)ニュータウン開発計画者を含む、男性リーダーのまちづくりへの関与、(2)仕事と子育ての両立を目指す、父親/母親のネットワークの存在という二つの重要な側面が明らかになった。特に(2)については、男性中心的な計画空間とされてきた郊外ニュータウンの変容過程において、新たな住民の価値観と実践を示唆するものであると考えている。同様に2年目後半を目途に、千葉県米本団地の調査を開始したい。公的な住宅供給の再編を背景として、これまで排除されてきた異なる国籍を持つ主体が地域に参入する機会も増えている。団地に暮らす定住外国人は郊外住宅団地に登場した新たな「住民」であり、彼/女たちの生活ニーズが地域においていかに表出しているのかについて、ホスト/ゲスト双方の関係性の中で明らかにしていきたい。これらのことを解明することで、ジェンダー化された地域「参加」の議論を問い直し、「新しい公共空間」における公正な参加機会を地理学の立場から実証的に探究できると考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
2年目の研究ではおもに、研究調査のための旅費および物品(設備備品および消耗品)の購入のための研究費の使用を予定している。先にも記したとおり、a.大阪千里ニュータウンのフィールド調査(場合により、東京多摩ニュータウンにおけるフィールド調査を含む)、またb.千葉県八千代市の米本団地における定住外国人の母親への質的調査によって、住民の地域「参加」を取り巻くジェンダー問題の明示を目指す計画である。すなわち次年度以降は、フィールド調査を中心的な課題としており、複数回の現地訪問(滞在)や、人員を要した調査研究を行うための旅費、謝金、その他物品費用等が研究費目の中心になると考えている。上記の物品費には、書籍や参考資料の購入なども含まれる。事例研究を通じて見えてきた新たな可能性と課題を、国内外のジェンダー地理学や既存の都市空間をめぐる研究の中に位置づけるため、フィールド調査と並行した書籍等の文献資料渉猟は不可欠になるであろう。ゆえに、2年次においても、1年目同様に設備備品費(書籍)の使用が見込まれる予定である。なお、研究計画に予定されていた「国際地理学会(ケルン大会)への参加」であるが、残念ながら報告要旨査読審査により報告資格を得ることができず、海外渡航予定が無くなってしまった。代わりに、2年目は海外渡航に予定されていた分の費用を日本国内の対象地域への研究調査費用として当て、郊外住宅団地における住民「参加」について考えるための事例研究の、より良い進展と充実に努めたいと思う。
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