研究課題/領域番号 |
23720407
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
矢部 直人 首都大学東京, 都市環境科学研究科, 助教 (10534068)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 都心部 / 就業主婦 / 生活時間 / 家事 / インターネット |
研究概要 |
東京都心部(都心3区,副都心2区)に居住する主婦を対象として,生活時間を調べるアンケート調査を実施した。その結果,有効回答305(就業主婦120,専業主婦185)が得られ,これらのデータに対する分析を行った。東京都心部に居住する主婦は,郊外と比較して長時間働く傾向にある。都心部に居住することで,フルタイムで働く可能性が高まるといえよう。しかしながら,長時間働くための生活時間の制約は厳しく,そのための工夫として家事を短縮化・省力化することが重要な課題となっている。また,専業主婦と比べて,睡眠や余暇の時間を削っていることも確認できた。厳しい時間制約の中で仕事と家事・育児を両立するための工夫としては,インターネットを使う人の割合が4割を占めた。インターネットのサービスでは,食料品などの小売りサービスを利用する人が多く,生活の中に確実に根付いている様子がうかがえた。家事目的でのインターネット利用の有無の検討からは,インターネットを家事目的で利用することでは家事時間の短縮には効果はなく,家事の効率化・省力化には寄与していないようにみえる。夫の家事への協力は,都心部に居住する世帯では概して高い。これには,都心部に居住することで夫の通勤時間が短くなっていることと関連があると思われる。このことは職住分離された郊外から職住近接の都心へと,空間的な関係が変わることで社会的な条件に影響を与える,社会―空間弁証法(Soja, 1980)の過程としてとらえることができるかもしれない。また,夫の家事への協力は,就業主婦に関しては多くの項目で効果があり,家事時間の減少に寄与する。しかし,専業主婦では,夫の協力があると家事時間が減少するのは朝食の用意のみであった。なお,親族の協力に関しては,就業主婦の家事時間の短縮に,直接には結びついていないようである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は都心部に居住する主婦の調査を実施する計画であったため,予定通り実施したことでおおむね順調に進展しているといえる。データの分析に関しても,アンケートデータの単純・クロス集計,統計的検定などを実施した。ただし,構造方程式モデリングによる分析に関しては,作業の遅れから実施できていない。しかしながら,以上の分析からいくつかの興味深い事実が明らかになった。一点目は,インターネットを家事に利用することは,単純に家事時間の削減にはつながらないことである。ただし,この点に関してはさらなる検討が必要である。二点目は,男性の家事への協力が増加していることである。これらの点は研究を開始する際には予想できていなかったことであり,新しい発見がえられた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究により新たに判明した結果を受けて,今後は以下の要領で研究を推進する計画である。まず,インターネットが家事時間短縮化に寄与する効果を明らかにするには,一日という時間スケールだけでは不足していることが分かった。そこで,一日よりも長い時間スケールでインターネットが家事時間を短縮する効果があるのか,検証を行う。この点を厳密に検証するには,一週間もしくはそれよりも長い期間で生活時間を記録する必要があろう。しかしながらこの手法は,被験者に多大な負担を強いることになる。この点に関しては,就業主婦を対象とした聞き取り調査を行って,いくつかの事例を集めることで補強していくことを試みたい。時間的な余裕があれば,インターネットを使った買い物と,実際の店舗における買い物時間を比較する実験を行い,詳細なデータを集めることで検証することも考えている。次いで,男性の家事への協力が増えた背景について検討したい。都心部に居住することで男性の通勤時間が減少したことが背景にあると考えられるが,この点については男性側の調査を行っていないため厳密に判断することができない。そこで,2010年国勢調査の集計結果が公表されるのを待ち,統計データから郊外の通勤時間と都心部の通勤時間を比較し,検討を加えたい。また,あらかじめ提出した研究計画に沿って,郊外に居住する主婦の生活時間に関する調査を行う。今年度の調査では,夫の家事への協力が増えていることが確認できたが,この傾向が郊外においても当てはまるのか,確認する必要がある。
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次年度の研究費の使用計画 |
調査の遅れから構造方程式モデリング用ソフトウェアは購入していない。そのため,今年度使用予定であった研究費を繰り越すことになった。この繰越金は,ソフトウェアの購入に加えて,今年度新たに判明した事実(異なる時間スケールにおけるインターネットの家事時間短縮効果の検証,男性の通勤時間短縮の検証)の検証のために使用する。具体的には,東京都心部に居住する主婦のインターネット利用に関する聞き取り調査実施のための調査依頼,調査旅費,インターネットを利用した買い物と実店舗での買い物時間の比較のための実験,男性の通勤時間が増加したことの検証に関する統計データの購入に充当する。東京大都市圏郊外に居住する主婦の調査では,調査の実施のためのモニター募集費用,調査旅費を使用する予定である。また,今年度の調査結果の学会発表を行う予定である。そのための学会発表の参加費,旅費を支出する。
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