最終年度にあたる本年度は、補足調査および成果公開を重点的に行った。 補足調査に関しては、広東省の農村部におけるフィールド調査によって、中国農村部における社会保障の歴史的推移と現状についてのデータを収集し、これまでの研究材料を補完すると共に、論文の執筆と口頭発表のプレゼンテーション用資料の作成に活用した。具体的には、村落社会に暮らす人々の生活基盤が、①20世紀以前から1949年は親族組織を中心に行う農業、②1950年代から1970年代末にかけては人民公社を単位として行う農業、③1980年代から今日では工場・民間オフィスでの労働および商業活動へと移り変わり、主たる社会保障の担い手が①では親族組織、②では人民公社と、労働単位とほぼ一致していたが、③ではとりわけ政府の施策が十分とは言えず、家族・親族がその主要な部分を担い、かつ業種間によって顕著な差異が存在しているというものである。加えて、②の時期までは海外移民からの送金や寄付が村落の社会インフラの整備や個々人の生活を支えていたが、2000年以降に代替わりが進むと両者の関係が希薄化し、他方で国内の成功者や地方政府は著しい経済力をつけ、それが公共施設の修築・新設等には還元されつつも、社会保障の整備には行き渡っていないことが明らかになった。 こうした知見を、英国マンチェスターでのInternational Union of Anthropoogical and Ethnological Sciences(IUAES)の世界大会、日本華僑華人学会の研究大会、およびライデン大学での国際ワークショップにおいて口頭発表した。
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