本研究では、中国農村部の社会保障の歴史的変遷と現状について、文化人類学の方法論により調査・考察した。東南部の広東珠江デルタの農村部においては、20世紀初頭までは親族組織である宗族、中華人民共和国の建国から1970年代の末までは人民公社が人びとのセフティーネットとして一定程度の機能を果たしてきた。1980年代に人民公社が解体された後は社会保障制度は未整備で、香港やマカオ等に住む親族からの支援がそれを部分的に補完してきた。2000年代に入ると地域経済がより向上し、地方政府も年金や保険等の整備に乗り出しはじめたが、拠出率に占めるその割合が高いために、地域ごとの偏差が著しいという課題に直面している。
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