研究課題/領域番号 |
23720424
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大石 高典 京都大学, アフリカ地域研究資料センター, 特任研究員 (30528724)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 換金作物栽培 / ローカルな資本主義 / 平等主義規範 / 呪術的思考の発生 / 狩猟採集民=農耕民関係 / ムスリム商業民 / カメルーン / コンゴ共和国 |
研究概要 |
2011年度前半は、これまでの調査により明らかになった狩猟採集民バカによるカカオ園経営の実態と平等主義規範の関係について、文献調査を加えつつ考察を行い、その結果を国際学術誌であるAfrican Study Monographsに投稿、査読の上論文掲載された。また2011年7月にはオーストラリアのパースで開催されたIUAES中間大会にて本研究課題について口頭発表を行った。その他本研究課題に関連する内容の英文学術論文を2本執筆し投稿、これらは現在査読中である。和文学術論文を2本執筆(うち1本は共著)し、それぞれ現在印刷中である。 以下、現地調査によりあらたに得られた知見を記す。調査地ドンゴ村の農耕民バクウェレ人の定住集落では、親族間における呪術/邪術騒ぎが以前から絶えなかった。しかし、これまでの観察では隣接居住する狩猟採集民バカ人の間からは、農耕民によって邪術にかけられることによる不幸は頻繁に言及されるものの、バカ人がバカ人を邪術にかけたという言説が聞かれることは殆どなかった。 2011年12月、旧知の友人であり、インフォーマントでもあったドンゴ村のあるバカ人壮年男性M氏が急死したという知らせを受けた。2012年1月から2月にかけて現地調査を行い、聞き取りを行った結果、彼の死をめぐって、これまでとは異なる言説と解釈がバカ人、そして近隣農耕民の間で得られた。すなわち、他のバカ人による邪術によって、M氏は亡くなったというのである。一連の言説空間の変化と、彼と親族集団が抱えていたカカオ園経営とそこから得られる金銭的不平等をめぐる対立の関連について検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、平等主義的な社会を営んでいるとされてきたアフリカ狩猟採集民社会の一つであるバカ人を主な対象に、換金作物栽培の浸透によりもたらされた経済的不平等の実態を記載するとともに、私有財産の発生への社会の対応を分析することにより富の蓄積と社会的平等の両立の可能性について考察することにあった。 研究初年度である今年度は、前年度までの予備的調査により明らかになったバカ人によるカカオ栽培と現金使用経済の実態、過去数十年間のカカオの国際価格の変動がカメルーンの熱帯林地帯辺境に位置する調査地の土地利用に及ぼした影響をカカオ園面積の実測調査に基づいて記載・分析した単著論文を刊行した。また、カカオ栽培により得られた現金の主要な用途を占めていると看取された飲酒と喫煙について、共著論文を執筆した。 現地調査では、当初自給用焼畑の悉皆計測を行い、カカオ園の分布と併せて地理情報学的な分析を行う予定であったが、調査地において本研究に関わる重要な出来事―バカ人の大規模カカオ園所有者の急死―が発生したため、それにフォーカスした調査に切り替えた。これまで近隣農耕民社会によりもたらされる災いとされてきた呪術や邪術が、経済的不平等の発生と拡大を背景にバカ人社会内部で実践されるようになってきていることが明らかになった。これは、日常的な移動により〈近接者への分配〉規範から例外を作ったり、近隣農耕民や商業民にカカオ園を一時的に貸し出すことにより、親族内での所有に関わる葛藤を棚上げするなど、富の蓄積に対して当該社会においてこれまでに見られてきたのとは異なる質の対応であった。今後、これを平等主義規範の維持か変容かという問題との関連して慎重に検討してゆくことが求められる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は、現地社会で現在まさに進行中のプロセスを扱っており、状況は常に変化している。当初仮説の検証とともに、新しい状況の丁寧な記載とそれへの柔軟な対応が求められる。 今後は、初年度にできなかった自給畑の計測とカカオ園を含めた地理情報(GIS)分析、カカオ園所有と人々の移動性の関係の解明、カカオ園の権利の賃貸・譲渡・売買をめぐる民族間関係、加えて大規模カカオ園所有者など富の蓄積に積極的な少数のバカ人とそれ以外の人々(多民族集団含む)との関係について研究および成果発表を進めていく方針である。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度に続き、カメルーン共和国において海外調査を実施する。渡航費と現地交通費、調査補助者および調査協力者への謝金が必要となる。 現地調査では、フランス語入力が可能な中古ノートPCを購入して現地に持参し、現地雇用する調査補助者にコンピュータ使用を教授して効率的にデータ入力を行いながら仕事を進める予定である。 国内学会および国際学会において成果発表を行うので、その旅費が必要となる。また、国際学術雑誌への論文投稿を行うので、原稿の英文校閲に費用が必要となる。
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