研究課題/領域番号 |
23720425
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研究機関 | 神戸山手大学 |
研究代表者 |
風戸 真理 神戸山手大学, 現代社会学部, その他 (90452292)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | モンゴル国 / 銀製品 / フェルト / 家畜 / 手工芸品 / モノ / 生産 / ポスト社会主義 |
研究概要 |
本研究の目的は、ポスト社会主義の諸社会におけるモノ生産の場において、生産者である人と生産されるモノとのあいだにどのような関係が取り結ばれてきたのかを、マクロな政治経済との関連のなかで究明するものである。当該年度における研究実施計画として、社会主義化をはじめとする国家の政治経済の変化が、モノ生産の現場における人とモノの関係に与えた影響を明らかにするため、同じ国家内部での異なる業種の生産現場での経験を比較検討することを予定した。6月に文化人類学会に参加してモンゴル遊牧社会の家畜生産に関する研究情報を収集し、8月には、国際モンゴル学会(ウランバートル市)にてモンゴル独自のフェルト製作技術の意味とその社会的な背景について研究成果を発表した。9月には、モンゴル国ウムヌゴビ県でフィールドワークをおこない、フェルト製作およびにそれに関連する羊毛を用いたさまざまな手工芸品の製作技術に関する聞き取り調査をおこなうとともに、モノ生産の具体的なあり方を映像に記録、編集し、分析した。また、ウランバートルの職人街においても、その規模やそこで活躍する職人の職種について総合的な調査をおこなった。11月にはひとつの銀鍛冶工房で定点調査をおこない、顧客と職人とのあいだのコミュニケーションを分析することで、鍛冶師に求められる機能と対価の決定過程について考察した。9月-翌年1月にかけて、モンゴルのフェルト製作について染織技術の見地からレポートをまとめ『染織情報α』に3回の連載として発表した。国際学会と『染織情報α』誌上におけるフェルト製作技術についての研究発表は、モノ生産における「道具」の意味と社会関係を明らかにした点で、重要な知見を提供した。また、モンゴル国での現地調査は、フェルトと銀製品の生産過程をめぐる人とモノとの関係について、現場におけるミクロな交渉を明らかにした点で研究目的達成の重要な材料を提供した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はじめに研究機関を移ったことにともない、所属機関における研究スペースがなくなり、資料や研究機器の多くを処分せざるを得なくなるなど、研究に大きな支障があった。とくに、これまでに報告者自身の科研費で購入して使用してきた備品であるパソコン2台(論文執筆用と映像編集用)の移管ができずに失い、研究環境が悪化した。しかしながら、当該年度の科研費で新しいパソコン1台(論文執筆用)とモノ作りの具体的な技術を記録するためのビデオカメラ一式などを購入し、研究活動を継続する基本的な体制を整えて再スタートをきることができた。調査の面では、モンゴル国で2回のフィールドワークをおこなった。本年度はウムヌゴビ県などの新しい調査地の開拓に成功し、そこでは、まれにしか目にすることのできないフェルト製品の製作場面を観察する機会を得た。また、2007年に調査をおこなった後に連絡が取れなくなっていた熟練鍛冶師をみつけることができ、調査が再開できた。このように、モンゴル国での調査課題品目であるフェルト、銀製品、家畜のうち、フェルトと銀製品について並行して調査の進展をみた。すなわち、これらのモノが今日のモンゴルの人びと日常生活において重要な位置を占めていること、これらのモノの生産・流通・消費・補修・リサイクルが盛んにおこなわれていること、その生産・補修技術が世代から世代へと受け継がれていることが具体的に明らかになった。このことから、社会主義期には停滞していたといわれる「家内制手工業」の生産技術が、今日のモンゴル社会では活性化し、さらには次世代に継承されているという大きな変化を指摘することができる。以上から、研究の目的は1年目としては順調に進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
4-7月にかけてモンゴルの食文化と社会関係に関する4回の連載エッセイを『人権と部落問題』誌上に発表する。6月には文化人類学会(広島市)にて口頭発表「モンゴルにおけるフェルト製作の技術と社会的背景―『母フェルト』をめぐって」をおこなうとともに、牧畜セッションの座長として議論をおこない、モンゴルの手工芸と牧畜に関するこれまでの研究成果を日本の学会に還元する。調査に関しては、研究計画1年目に基盤を築きあげたモンゴル国のフィールドで、集中的なフィールドワークをおこなう予定である。7-9月の長期調査では、これまでに調査してきたフェルトと銀製品に加えて、本研究の原点ともいえる家畜と人間の関係についての考察を深める計画である。とくに、家畜の生産のための土地利用、土地の利用をめぐる人びとの相互交渉、土地の利用を規制する政府の政策、などに焦点を当てて、家畜、土地、人の関係について調査検討をおこなうことを計画している。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は海外での長期調査と国内での学会参加を予定しているため、研究費の支出は旅費が中心となる。その他に、映像編集および学会発表に使用するためのノートパソコン、映像編集用のアプリケーション、コンパクトデジタルカメラが不足しているため、これらの購入を検討している。
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