研究課題/領域番号 |
23720425
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研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
風戸 真理 国立民族学博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 研究員 (90452292)
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キーワード | モンゴル / ポスト社会主義 / 物質文化 / フェルト / 住居 / 歴史 / 社会変化 / 牧畜・遊牧 |
研究概要 |
当該年度に実施した研究の具体的な内容は、6月に文化人類学会加し、口頭発表「モンゴルにおけるフェルト製作の技術と社会的背景―『母フェルト』をめぐって」をおこない、モンゴルのフェルト製作のあり方を、その技術的側面に加えて、ローカルな社会関係の側面から明らかにした。7月から9月には、モンゴル国の遊牧地域においてフィールドワークをおこない、移動式住居「ゲル」とその部品であるフェルトなどの作り方と使い方について聞き取り調査した。 出版成果としては、風戸(2013)はカザフスタンにおける職業選択を中心とする人生選択に焦点を当て、社会主義期とポスト社会主義期の労働と生活のあり方およびその理念を検討した。風戸(2012)の4回の連載は、変化するモンゴル国における不変項である畜産物に依存した食生活のあり方や食事のメニューに関するモンゴルの内的な論理について論じた。Kazato, M.(2012)では、「母フェルト」が、巨大フェルトを大量に複製する合理的な手段であり、かつフェルト製作に関する在来知識が家族や世帯間で継承される手がかりとなっていることを指摘した。 執筆中の成果として、ゲルの生産・使用・補修に関する調査結果がある。ゲルは、社会主義期以前、社会主義期、体制変化後という時代の変化と、個人のライフサイクルに応じて、その素材、使い方、補修のしかたが変わっていた。すなわちゲルは、移動性の高さに加えて、素材やサイズ、使い方を使い手の都合や時代状況に合わせて変えられるという自在性を特徴とするといえるだろう。 以上の成果の意義と重要性は、ポスト社会主義諸社会のモノ生産の場における人間とモノとの関係を時代ごとに比較検討し、モノにまつわる記憶を手がかりとして、ふつうの人びとから見たポスト社会主義の歴史を描き進めた点にある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の大きな目的は、ポスト社会主義の諸社会におけるモノ生産の場において、生産者である人と生産されるモノとのあいだにどのような関係が取り結ばれてきたのかを、革命以前・社会主義期・体制変化後の各時期で比較検討することである。 これまで、対象時期としては社会主義期以降の資料を重点的に収集してきた。その理由は、革命以前については、その記憶を語れる人が申請時の予想よりも少なくなっていたためである。 対象地域については、中央アジアのカザフスタンと東アジアのモンゴルではフィールドワークをおこなうとともに口頭発表ならびに出版成果を出すことができたが、東欧については文献研究を進めているところである。その理由は、モンゴル国の牧畜地域が、申請者が交付申請時に考えていたのよりもずっと早い速度で変化していることがわかったためである。本研究の基盤はモンゴル遊牧地域のポスト社会主義的な状況の把握にあり、それを基軸としてユーラシアのポスト社会主義地域と広範な比較研究をおこなうことにより、モンゴル社会主義の特徴と社会主義の普遍性を抽出することを目指している。現在、モンゴル国では急激な経済開発が進んでいて、牧民は都市部へ移住し、鉱山での賃金労働に従事し、牧民の子どもたちは高等教育を受けて都市で就職する傾向が強まっている。このような現代的な社会変化に対する牧民の対応には、社会主義期や体制変化期における彼らの対応と共通するパターンや理念があるように思われる。 したがって、現在の激変するモンゴル牧畜地域の現状と変化を記録、分析することは、今やらなければ永遠にわからなくなってしまう火急の課題であり、本研究計画の要となる部分であると考えて、この2年間の研究地域としてモンゴル国を優先する対応をとってきた。
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今後の研究の推進方策 |
報告者は平成25年4月に教育を中心業務とする機関に異動した。研究の環境が変わり、これまで以上に即時的に研究成果の社会還元が求められるようになった。そこで、本研究課題の推進方法としては、海外でのフィールドワークは学校休暇中に集中的におこない、研究室でのデータ分析作業に重点をおき、研究成果の社会還元活動を増やす、という調整を計画している。 具体的には、 【4-7月】本研究課題の内容を紹介するホームページの基礎部分を作成し、公開する。これを基盤として、本研究課題に関連する諸分野の人びととのネットワークを構築し対話をおこない、将来的には、本研究課題を引き継ぐものとして、ポスト社会主義地域におけるモノ生産についての分野横断的な共同研究の組織を構想している。/名古屋大学科研費「牧畜文化の解析によるアフロ・ユーラシア内陸乾燥地文明とその現代的動態の研究」による国際ワークショップでは、口頭発表「モンゴル国の遊牧民の生活技術と社会変化」をおこなった。/文化人類学会に座長として参加し、文化人類学会における研究交流と議論の活性化に寄与する。/プリンタ複合機を設置し、これまでに収集したデータ(とくに図像)をデジタル化し、分析する。 【8-10月】モンゴルをはじめとするポスト社会主義ユーラシア地域でフィールドワークをおこない、モノの生産と使用のあり方を手がかりとして人びとのライフヒストリーを収集する。そこから、ローカルな人びとによる社会主義の受け止め方と、今日の経済成長への対応の戦術を抽出する。/ゲルの利用と社会主義的変化に関する単著論文を執筆し、『アフロユーラシア内陸乾燥地文明研究叢書』に寄稿する。 【11-3月】これまでに収集した文書、文献、図像、映像資料を整理し、分析する。同時に、学内外の講演会、学内講義、ホームページ上でこれまでに得られた本研究課題の最新成果を逐次的に発表し、社会に還元する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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