本研究の目的は、ポスト社会主義の諸社会におけるモノの生産・流通・消費の場における人間とモノの関係を、マクロな政治経済と関連づけながら検討することで、ふつうの人びとの視点による多声的な社会史を記述することである。 ■最終年度の成果 モンゴル・カザフスタン他アジア諸国を事例として、古くから使われてきたモノの生産・流通・消費のあり方の変化、社会に新たに移入されたモノの受容、国家の政治経済体制の変化による人間=モノ関係への影響、を記述・分析し、口頭報告8件、論文等5本を発表した。また、これまでの総括として、「畜産物の流通にみるモンゴル高原のグローバリゼーション」およびワークショップ「アジアにおけるグローバリゼーション:衣食住から社会史を記述する」を研究代表として企画し、4年間の研究成果を社会に還元した。 ■研究期間全体の成果 ユーラシアの諸地域においてポスト社会主義諸国とそれ以外を比較しながら、地域の自然・社会に根ざしたモノの20世紀以降の生産・流通・消費のあり方とその変化、とくにグローバリゼーションによる影響を検討した。モノとしてはモンゴルの移動式住居「ゲル」やその壁フェルトなどを取りあげた。 壁フェルトの生産は、国家の経済体制の変化にともない、家内制手工業と工場生産の間で揺れていた。牧民の手作業によるフェルト生産はローカルな社会・文化に埋めこまれており、ユネスコの無形文化遺産に登録された。しかし近年は外国人観光客のための小物フェルト生産が盛んで、これは個人生産される商品である。ゲルは革命前には職人の手作りであったが、社会主義期に工業製品としてモンゴル国家規格MNSにより標準化された。住み手は世帯の発展サイクルに合わせてゲルのサイズを縮小・拡大しながら使用していた。モンゴルの人びとは20世紀の都市化の過程でも草原と都市を往還していたが、ゲルは時空間の変化に対応できる住居なのである。
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