研究課題/領域番号 |
23720427
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研究機関 | 神戸学院大学 |
研究代表者 |
倉田 誠 神戸学院大学, 人文学部, ポストドクトラルフェロー (30585344)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | オセアニア / サモア / 文化人類学 / 障害者福祉 / 聴覚障害 / 国際援助 |
研究概要 |
本年度は、資料調査によりオセアニア島嶼地域の障害者福祉の状況を把握するとともに、サモアで活動する3つの障害者支援NGOの活動を調査し、同社会における障害者福祉の在り方と「障害」概念の受容状況を検討した。 その結果、サモアでの障害者福祉においては、(1)国際的な援助を背景とした現地NGOが事実上の主体となっており、(2)それらNGOが国家に代わって「障害者」を見いだし囲い込む役割を果たす一方で、(3)各NGOの「障害者」の扱い方には障害種別や特別教育の位置づけをめぐって大きな相違があることが明らかとなった。 このような初年度の研究成果をうけて、日本オセアニア学会第29回研究大会で「『障害の文化』は生まれるか? サモアにおける障害者福祉活動の展開から」と題した研究発表を行った。ここでは、調査を実施したサモアの3つの障害者支援NGOのうち主要なもの2つを取り上げ、それぞれのNGOが置かれている国際援助や国家との関係性のなかでその活動内容や活動方針を比較検討し、その活動によって住民たちにどのような「障害」の考え方がもたらされ、どのように受け止められているのかを明らかにした。この結果、国際援助の主体である援助国や援助団体が前提とするグローバルな「障害」概念と現地のNGOがそれを受けて提示する「障害」の考え方、さらにはNGOが活動を通して住民に提示する「障害」と住民の受け止め方の間には乖離が大きく、そのことが政府やNGOなどによる盛んな「障害」概念の操作を生み出す一方で、障害者福祉に関する一方的な力関係を和らげる結果につながっている点も明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度は、研究費の交付が不透明な状況が続き、まとまった執行額が生じる海外での現地調査を行う時期を逸した。しかし、分担研究者として加わっている別の科研において、オセアニア島嶼地域での障害者の集団形成に関する現地調査を行う機会があり、サモアにおいては本科研での課題の一部を調査することができた。また、次年度に予定していたニュージーランドでの資料調査も、この機会に先行して行った。このような状況のため、申請当初の計画に比べ、サモアでの調査の実施状況は実質的に半分程度の水準であり、昨年度に予定していたフィジーなどの関連国における調査もまだ実施していない。研究成果の公表に関しては、当初の予定通り、日本オセアニア学会で経過を発表済し、本研究に関する貴重なコメントと情報を得ることができた。また、研究成果の社会的還元の一環として、神戸市の障害者福祉ボランティアで調査成果を報告・講演を行った。本年度の科研費の執行を通して、調査に必要な公文書や報告書等の資料、記録機材、現地NGOや援助関係者とのコネクションを得ることができ、次年度の現地調査に向けた準備はほぼ完了している。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、前年度の成果を踏まえ、より集中的な調査の実施と研究成果の発表を行う。まず、8月までに前年度の調査とその後の資料調査による研究成果をまとめ、オセアニア島嶼地域での「障害者」概念の受容状況と障害者福祉の展開に焦点をあてた論文を作成する。 次に、8月から9月にかけてサモアと関連国(フィジーを予定)において現地調査を実施する。サモアでは、前年度の調査結果を踏まえ、調査村落とNGOによる訪問教育の現場における参与観察を主体として、訪問活動の実態や教育スタッフの育成に関する調査を行う。また、ニュージーランドでは、国立図書館・公文書館において、イギリス領西太平洋でのフィジーでは、オセアニア島嶼地域の聴覚障害者教育プログラムの開発を担当している部署を訪ね、開発が本格化した1980年代以降の経緯や現在の同地域におけるNGO組織との協力関係を調査する。また、フィジー国立公文書館にも立ち寄り、各国が独立する以前のイギリス領西太平洋での障害者福祉に関する資料を調査する。 帰国後は調査資料の整理を行い、研究成果全体をまとめた論文の作成に取りかかる。完成後はオセアニア関連の国際的な学術雑誌に投稿することで、間接的ではあるが、調査協力者たちへの成果の還元を図る。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、サモアとフィジーでの現地調査を軸として研究費を使用することを予定している。また、国内での研究成果の発表や論文の作成過程で必要となる事務機器や文献に購入にも当てる予定である。具体的には、国内旅費7万円、海外旅費35万円、物品費6万円、謝金等2万円を予定している。
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