本年度においては,当研究フィールドとなる活動のいわゆる代表的な活動,病気や生きづらさをテーマにしたライブ活動のみならず,講演会などの活動や他の主催者によるイベントへのゲスト出演など,表現活動を行う当事者の実践を多角的にとらえるためのフィールドワークを行った。加えて,当研究フィールドのみならず,当事者による芸術活動を組織的に行っている他の類似した活動へのフィールドワークを行い,本研究の対象となる実践を他の活動と比較しながら検討を行った。そして,本年度は本研究の最終年度であり,研究成果として学会誌に論文を投稿,発表した。また,ネットワークを単に対人関係のみならず,自己との関係といったアイデンティティ形成の観点から考察し,当事者の自己規定のありようを学会にて発表した。以上の活動を経て得られた知見は,1.当事者は,共通性と共に時に差異を用いて,そして芸術や福祉など多様な文脈の中で当事者組織をつなげることによって,当事者間のつながりをつくること,2.障害を価値転換するというよりはあくまで「弱く」ある自己規定をなすこと,3.対立的に社会に働きかけるというよりは当事者概念を従来非当事者とみられてきた人々に付与し,サブカルチャーとして活動の軸をおくことによって,社会に対して働きかけること,となる。しかしながら,こうした発見事項はあくまで当事者のネットワークを形成する上での実践の一端であり,当事者の活動を単純化したものの見方にとどまっている。今後は,さらなるネットワークのありようを見出すことと共に,複雑,多様化している当事者の実践からネットワークを形成していく戦略を見出すことが求められると思われた。
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