研究課題/領域番号 |
23720434
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
田村 和彦 福岡大学, 人文学部, 准教授 (60412566)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 文化人類学 / 中国 / 死生学 / 葬儀研究 |
研究概要 |
本年度は、陝西省の殯儀館(葬儀センター)にて、近現代中国において導入、推奨された新たな葬儀である「追悼会」をめぐり、殯儀館職員と遺族の間で繰り広げられるコミュニケーションについて参与観察をおこなった。 本年度は、「追悼会」についての集中的な調査の初年度にあたるため、職員間での作業分担の様子や、インタビューをおこなうことで、次年度以降の調査に備えた。従来は、「先進的」とされる一部の殯儀館での事例が中心であったため、先行研究の整理からは見えなかったが、実地調査を経て、研究上に占める中小都市における殯儀館の重要性が明らかとなった。 中小規模の都市では、殯儀館の規模も小さく、専門のスタッフが少ないことから、作業の共有化が図られ、輪番制で遺族に対応することで、専門知識や微細な技術の共有がみられた。調査の後半ではこの点に注目し、これらの学習過程について質問および調査を集中させた。 ここで観察された作業工程と一部の専門知識に、遺族との接点を加えることで、次年度以降の分析枠組みを構築し、平成23年10月および11月に開催された、中国の学会で発表することで、同様の関心を持つ研究者たちからの意見、助言を得ることができた。これらを参考に、平成24年度の本調査をおこなう予定である。 なお、一部の研究費について、前倒し支給を受けることで、上記の学会参加のための渡航費とした。そのため、次年度以降に予定していた上海地区での調査は、陝西省での調査の行程に繰り込むことで、当初の目的に従った研究活動を実施する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の初年度は、おおむね順調に進展しているということができ、その理由として、初年度の目的に掲げた(1)現地調査の着手と、次年度の本調査における研究拠点の確保、(2)本調査にむけた理解枠組みの構築に成功したことが挙げられる。 具体的には、(1)については、2011年度夏季の調査で、陝西省中部地域の地方都市に所在する殯儀館にて、「追悼会」担当の職員たちとインタビュー、参与観察をおこなった。2地点での調査をおこない、資料の状況と職員とのラポールの点から、次年度の調査基地を、調査計画にて挙げた渭南市臨渭区殯儀館とした。この殯儀館の紹介により、複数個所での調査受け入れが可能となった。ここでのインタビューと実際の労働のなかから見出した問題を、次年度の調査における焦点とし、「追悼会」研究の理解枠組みとして洗練させた((2))。 この理解枠組みについて、「研究の目的」に記したとおり、隣接諸科学の助言やコメントを取り込み、修正を加えるため、2011年に開かれた2つの国際学術会議で発表した。一つは10月におこなわれた上海・華東師範大学での「第1回都市社会フォーラム」であり、社会学、都市民政、生活史の研究者を主な対象としていたため、これを選択した(発表は単独、タイトルは「再考技術時代的「死亡」ー不是分析城市特有的現象、而是思考「我們」的日常生活 」)。二つ目は、フィールドワークを重視する若手文化人類学者の国際学会である「第2回青年人類学フォーラム:中国研究:他者と自者のパースペクティブ」(広東省・中山大学)であり、比較的ミクロな視点と手法から議論がおこなわれることを期待して、このフォーラムにエントリーした(発表は単独、タイトルは「環境、工具、技術和人之間的人類学ー以殯儀館工作人員的活動為例 」)。その結果、理解枠組みを一部修正し、次年度の本調査をおこなううえで、有益な助言やコメントを得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は本調査をおこなう計画であり、研究の重点を調査を中心に配置する。 本年の予備調査を経て選定した調査基地を中心に、紹介を受けて受け入れ可能となった近隣の殯儀館での調査および、上海市内の殯儀館、葬儀文化センター、葬儀博物館、当該地区の档案館(行政文書館)での資料調査を実施する。 陝西省中部の地方都市と上海市内の殯儀館における「追悼会」は、形式上は大きな差異がないが、葬儀全体におけるその布置は同じではないことが、本年の資料調査から予測される。具体的には、20世紀初頭に形成され、中華人民共和国時期に普及が進められた「追悼会」が葬儀そのものとなるケースと、「追悼会」と従来の葬儀が併存するケースが想定される。本年の研究では、こうした差異を、死の社会的布置の規範モデルとして普及してゆく過程(日常化)として捉えうるものかどうかを検討しつつ、調査考察をおこなうものとする。 なお、中国での学会発表を予定より一度増やし、研究交流を進めた結果、予算の前倒し執行手続きをとった。そのため、当初の計画では、本年の調査を陝西省と上海市で異なる時期におこなう予定であったが、それが困難となるため、両者を夏季に集中して実施する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費は、実地調査に関するもの、国内・国外での資料収集に関するもの、調査機材の購入に関するものを主として支出する。このうち、実地調査に関する支出は、「今後の研究の推進方策」で述べた理由から、申請当時より減少する。また、調査機材の購入に関する支出は、すでに予備調査で必要機材の多くを購入していることから、次年度は同じく減少する予定である。 謝礼、人件費に関しては、現在、調査受け入れ機関と交渉中であり、要不要あるいは具体的な金額など、2012年6月ごろに決定することとなる。ただし、必要になった場合でも、対象者が少ないことから、研究費の支出は多くはならないと考えられる。
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