研究課題/領域番号 |
23720434
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
田村 和彦 福岡大学, 人文学部, 准教授 (60412566)
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キーワード | 社会人類学 / 死生学 / 中国研究 / 組織研究 |
研究概要 |
本年は、中国陝西省および上海市の中規模殯儀館にて、追悼会の実践のありようについて調査分析した。従来の葬儀研究では、主に少数の遺族の側からの観察に終始してきたため、申請者の調査活動においては、遺族の働きかけを視野に入れつつも、中国の葬儀研究上ほとんど考察されてこなかった、政策と実践の中間に位置する、社会的関節というべき、殯儀館従業員の活動を積極的に取り上げ、彼ら、彼女らと遺族の間で取り交わされる相互行為に着目したフィールドワークをおこなった。 そのことで、新たな追悼会という儀式のフォーマットを受け身として利用する遺族像、あるいは、国家政策としての葬儀改革を人々に強いる殯儀館従業員という既存のモデルではなく、取捨選択のなかから親族の葬儀を構成する行為の過程を理解するモデルへと展開する糸口を得た。ただし、そのなかで、経済力や関心の低さなどに起因し、葬儀の創造の主体を放棄する事例もみられることから、今日の葬儀改革の方向が、かつての漢族の葬儀からみれば、遺族の主体化を迫る形式になりつつあるという指摘も可能である。この、新たな葬儀の方向性に関する問題については、次年度でのデータ収集を行ううえで注目すべき対象として取り上げるものとする。 また、本年度の初回調査は、9月初旬に実施したが、政治的な問題から、予定された一部の調査活動が実行不可能となった。すでに前年度に訪問を繰り返し、調査地との関係が構築されていたため、最終的に、当初予定していなかった12月末から1月初旬に再度調査をおこなうことで解決したが、そのために渡航及び調査にかかる費用が、計画を超えてしまい、前倒しの申請を行うこととなった。この点については、次年度の研究計画の一部見直しにより、申請当初の研究計画を完成させるべく、調整する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」に記述したとおり、調査対象へのアプローチという点では、本年も、研究計画の目的どおりに達成度を高めることができた。とくに、3箇所の殯儀館で、殯儀館職員(そのうち、今回の調査では「追悼会」実施に関わるグループ)に、長期のインタビューをおこなうことができたことは、隣接諸科学でもほぼ前例がなく、大きな成果といえる。 他方で、本来の調査計画では、本年度の渡航、調査を夏季1回と設定していたが、一部の調査対象からの求めに応じて、政治的な雰囲気の変化を待ってから再調査としたため、経費の面では、計画どおりに進まない側面があったことも否定できない。しかし、本研究がフィールドワークに基づく研究である以上、こうした調査対象との関係にかかわる問題は避けることができず、あくまで信頼関係に基づいた公的な調査をおこなうためには必要な処置だったと考える。 よって、本年度の達成度は(2)「おおむね順調に進展している」と考える。
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今後の研究の推進方策 |
「研究実績の概要」に記述したとおり、本年度の調査では計画どおりの渡航、調査時間を確保したため、渡航回数が増えた。次年度は最終年度であるため、夏季に昨年度、本年度にインタビュー、参与観察した地点にうちて、短期の補足調査をおこない、不明瞭な点の確認と、現在構築したモデルを用いた議論をおこない、モデルの修正をはかる。 同時に、本年度は、過去の「追悼会」形成時期の資料を十分に集めていないため、文献資料の調査、分析にも一定の時間を割り振る予定である。 これらの作業を経て、研究計画に記した目的、すなわち、「追悼会」実施という中国における葬儀改革の三つの柱の一つについて、どのような社会背景のなかで成立し、普及し、そしてその結果、死の社会的布置が変化したのかを明らかにすることができると考える。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費用である200,000円と本年度の繰り越し金7,234円を有効に使い、補足調査と資料収集をおこなう予定である。ただし、申請時の研究費の使用計画に比べて、最終年度の費用が逼迫してしまったため、一部の作業(特に旅費のかかる作業)については、同時進行でおこなう必要がある。具体的な対応策としては、文書館などでの資料閲覧時間の削減を図るため、費用がかかり、時間の限られる複写からデジタルカメラなどでの撮影へ切り替え夜間に資料読解、帰国後にパソコン入力をおこなうなど、調査地3箇所の訪問時間を工夫し、そのうちの1箇所で重点的に本年までの調査資料を確認するなどが考えられる。
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