本年度は、陝西省の地方都市における殯儀館(葬儀センター)を複数個所回り、この施設における追悼会の状況を参与観察により調査した。このことで、昨年度の研究実績として得られた追悼会の運営状況に関するデータとそれをもとに組み立てたモデルを相対化する作業をおこなった。昨年度注目した、小中規模殯儀館における作業の共有と、完全に様式化されていない、遺族との距離について、重点的に作業への参与と観察、遺族へのインタビューをおこなった。 他方、殯儀館成立初期からの文献資料を収集、分析することで、追悼会の形成がどのような力学と社会背景によって成り立っていたのかを考察した。 その結果、清末に成立した「追悼会」という葬儀形式が、日本と同じく無神論的な立場と科学主義を中心として誕生したものの、中華民国政府、辺区政府の用意する公的な葬儀となるなかで、家族的紐帯から切り離され、葬儀の二重化という状況を含みつつ、政府関係者や軍人、知識人ら特定の人々の集団を中心に展開したことを確認した。その後、中華人民共和国の時期には、その無神論的な側面を強調しつつも、簡素な葬儀として一般の人々への浸透が図られ、故人と国家を直接向き合わせる形での顕彰制度として中国の新たな葬儀形式として定着してゆく過程を概観した。同時期の、「単位」制度もまた、この浸透を支持することとなった。 しかし、改革開放以降の「単位」制度の解体と、流動性の増大は、再び、葬儀を家族を主体とした運営へと投げ戻し、それに伴って殯儀館の役割およびそのサービスも変質を遂げつつあることを、フィールドワークから確認した。 本年度は、3年にわたって収集した文献資料と、フィールドワークによるデータを整合的に理解するための追悼会形成モデルを構築することで、本研究テーマの掲げた目標を達成した。
|