本研究は、「調査する側」と「調査される側」の双方が「研究資料・文化遺産」を活用できる体制を構築することを目的としている。本研究が採り上げる資料は、日本人民族音楽学者が1970年代後半から1980年代にかけてアメリカ合衆国アラスカ州で採録した音声資料である。本年度は、(1)採録地住民との間で資料の公的利用についての議論を進めた、(2)当該資料を利用するプロジェクトについてのプロセスについて整理した論文の公表、(3)アラスカをフィールドとする研究者との意見交換、を実施した。これらの研究活動の結果は以下の3点である。 (a)本年度は筆者が調査研究をそれ以前から実施してきた先住民村落以外の、アラスカ先住民村落住民との当該資料の利用管理に関する議論を実施する予定であった。しかし日程調整や議論のための準備が不十分だったために、十分な結果を得ることができなかった。本研究課題は本年度が最終年度ではあるが、今後も可能なかぎりにおいて、引き続きこの点については関係各所と連携を進めながら継続していきたい、と考えている。(b)本研究課題における取り組みについて整理した論文を発表した。当該地域で収集された民俗標本活用の歴史をレビューした上で、当該音声資料を公的展示という形式で活用できるようにすることが将来的に実現すべきゴールであることを指摘するとともに、それに向けて解決すべき問題点を洗い出すことができた。(c)アラスカ州をフィールドとする諸分野の研究者との意見交換を通して、研究資料の公的活用に関する知見を深めることができた。
|