本研究は、従来必ずしも十全に検討されてこなかったフランス法上の用益権を、二つの観点から掘り下げるものである。第一に、相続・恵与法上の利用実態を解明する。租税法の規律や公証人による実務慣行にも視野を広げ、「相続財産の先渡し」という用益権が担う具体的機能を析出する。第二に、用益権をめぐる物権法上の言説について、その沿革に遡りつつこれを再構成し批判に付する。用益権は、所有権の権能の一部を他者のために分肢したものと理解されてきた。しかし、現代における利用実態との照合を行うとき、この説明は破綻を見せ、さらには所有権概念それ自体についての再考が促される。
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