研究課題/領域番号 |
23730006
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
見平 典 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 准教授 (90378513)
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キーワード | 違憲審査制 / 司法積極主義 / 最高裁判所 / 司法政治 / 基礎法学 / 公法学 |
研究概要 |
違憲審査制は憲法秩序や人権の保障にとって鍵となる法制度であることから、この制度の運用の在り方は社会的に重要な意味を有する。このような認識から、本研究課題は違憲審査制の運用に関する経験理論の構築を目指しているが、実証的基盤に裏打ちされた理論を構築するためには、現実の違憲審査制の運用に関する具体的な事例分析の蓄積が不可欠である。そのため、前年度は、20世紀中期から後期にかけてのアメリカ連邦最高裁判所による違憲審査制の運用の変化を分析したが、本年度はその成果を踏まえつつ、2000年に連邦最高裁判所によって下された「ブッシュ対ゴア事件判決」について、新たに考察を行った。同判決は、近年の連邦最高裁判所による違憲判決の中でもっとも論争的かつ「積極的」と位置付けられている判決であり、研究代表者はこの重要判決の背後に働いていた諸要因と、それがその後の違憲審査制の運用に与えた影響について、憲法・司法政治・法社会学の各観点を総合しつつ分析を試みた。そして、その成果の一部について、第8回アメリカ憲法判例研究会(2013年3月16日、慶應義塾大学)において報告を行った。 また、近年、日本の最高裁判所による違憲審査制の運用に変化が見られるが、この点並びに違憲審査制の運用に関する経験的な理論枠組みについて、これまでの研究成果に基づき、2つの国際学会において研究発表を行った。(“2012 International Conference on Law and Society”(2012年6月5-8日〔報告は8日〕、ホノルル)、“The Third East Asian Law and Society Conference”(2013年3月22-23日〔報告は23日〕、上海)。)さらに、両学会では、同様の関心を持つ外国の研究者との意見交換等を通して、違憲審査制や司法行動に関する知見の獲得に努めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、日米の裁判所による違憲審査制の運用について動態的な経験的分析を行うとともに、そうした事例分析の蓄積を通して、違憲審査制の機能条件を明らかにし、この制度の運用に関する経験的な理論枠組みを構築することを目的としている。 このような目的に照らし、アメリカ連邦最高裁判所による違憲審査制の運用に関して、これまで20世紀中期から後期にかけての変化、および、近年の重要判決を対象として、事例分析の蓄積を進めてきた。また、日本の最高裁判所の違憲審査制の運用についても、近年の変化に関して情報の収集に努めている。さらに、違憲審査制の運用の規定要因について、理論枠組みの精緻化を進め、著書の刊行や研究報告の形で公表している。このように、裁判所による違憲審査制の運用について、事例分析の蓄積と理論枠組みの構築を着実に進めており、研究は概ね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
第1に、日米の裁判所による違憲審査制の運用について、「変化」に着目した事例分析の蓄積の作業をさらに進める。具体的には、まず、本年度取り上げた「ブッシュ対ゴア事件」について、その背景的要因と影響を中心に、分析をさらに進め、論文を執筆する。その際、一時資料の他、憲法学・法社会学・政治学・法史学の関連文献を幅広く検討し、学際的な分析を行うように心掛けるとともに、司法行動の背景的要因を解明する際の方法論にも資することができるように努める。また、アメリカ連邦最高裁判所の憲法判例の研究会にも引き続き参加し、同裁判所の近年の違憲審査活動について情報収集を行う。 また、日本の最高裁判所による違憲審査制の運用についても、「変化」に着目した分析を進める。分析にあたっては、上記アメリカ連邦最高裁判所の分析の場合と同様に、一時資料や関連文献を幅広く学際的に検討する。また、量的な分析も行うことができるように、裁判官の判決行動データの収集・整理を進める。 第2に、上記研究の成果を踏まえながら、違憲審査制の運用に関する経験理論の構築に引き続き取り組む。既に、違憲審査制の運用の変動に関する理論枠組みを提示しているが、上記事例分析を進める中で、この枠組みのさらなる検証と精緻化を進めていきたい。 第3に、上記研究成果が、わが国の違憲審査制の運用の在り方について含意するところを考察する。上記研究の知見にしたがえば、日本において適正な違憲審査制の運用を実現するためにはいかなる制度的手当てが必要であるといえるか、引き続き考察を深めていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度に使用する予定の助成金があるが、これは、近年のアメリカ連邦最高裁判所による違憲審査権行使の事例について、その重要性に鑑み、より深く詳細な分析を追求した結果、本年度の図書購入はこれに関連するものが中心となり、それ以外の図書の購入については次年度以降となったためである。 次年度には、前記研究推進方策に従い、日米の違憲審査制や憲法・司法行動に関する諸分野の図書を購入する。また、分析の視点や手法を獲得するために、両国以外の違憲審査制や憲法・司法行動に関する諸分野の図書も購入する。さらに、日本の最高裁判所による違憲審査制の運用について量的な分析を実施する際に必要となる、統計ソフトウェアや統計分析関連図書を購入する。また、関連する学会および研究会に参加して報告や情報収集を行うため、それに必要な旅費を支出する。
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