研究課題/領域番号 |
23730008
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
吾妻 聡 岡山大学, 社会文化科学研究科, 准教授 (60437564)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 法律学方法論 / 批判的法学研究 / ロベルト・アンガー / 制度構想の法学 |
研究概要 |
本年度は,研究計画に従って,"制度構想"をキーワードとするロベルト・アンガーの法律学方法論を的確に理解するための(1)論文執筆と(2)研究報告を行った。 (1)まず,吾妻 聡「Roberto Ungerの法社会理論:その方法論的考察―制度構想の法学第二の序説―」岡山大学法学会雑誌第61巻第4号(2012年3月)を執筆し,ことにアンガーの初期の法学分野に関わる著作に焦点をあてて,その問題意識が近代知・近代社会理論の克服にあったこと,しかしながら,アリストテレス的自然主義とでもいうべき陥穽に陥いることによって,むしろアンガー自身が後期著作で乗り越えようとする「失敗作」となっていることを述べた。次年度の論文では,後期アンガーが提案する"制度構想の法学"は,そうした失敗を乗り越えようとする自己超克の構想であることを明らかにしつつ,その姿を具体的に描き出す。 (2)中国・北京大学法学院にて,研究報告『制度構想の法学と「公私協働論」』(2012年3月16日)を行った。この報告は,第1に,ことに社会変革の時代における法学(者)の職責が,制度・社会体制の大胆な構想にあるということを,アンガーの制度構想の法学を下敷きにしつつ主張するとともに,第2に,アンガーが『法学はどのようなものになるべきか』(1996)のなかで予兆した複数の社会体制論が,今日のわが国の「公私協働論」によって実際に更なる具体像を与えられつつあることを明らかにしようとしたものである。「制度構想の法学」という明示的な名称・アジェンダを掲げないまでも,わが国の法学者たちは,市民社会のあるべき形・制度的仕組・制度的布置について積極的な構想を提言している・してきたということ,つまり,法的思考の精髄は,司法的決定の批評ないしは合理化にではなく,社会体制の構想(その意味での制度的思考)にあることを主張したのが当該報告である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの研究は,おおむね順調に進展していると自己評価することができる。第1に,アンガーの初期の法理論に関して,6万字程度の論文を執筆・発表したこと,また,後期法理論に関連する3万字程度の原稿に基づく研究報告ができたことは,研究が当初の計画を概ね順調に遂行できていることを示すものであると考える。 ただし,後期アンガーが提案した制度構想の法学については,今日の他の「制度学派」や批判法学派,かつてのリアリズム法学,今日の「新しいリアリズム法学」など,もろもろの法学運動・理論との比較研究を通して更にそその姿を具体的に詳述するという重要な作業が残されており,これが次年度の研究課題となる。 そのために,「当初の計画以上」とはいうことはできず,「概ね順調である」というに留まるものである。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,下記の研究計画に従って,(1)制度構想の法学の意義と課題を詳述するとともに,(2)財産制度論に着手する。(1)アンガーの著作・制度構想の法学の意義を明らかにするために,(1)アメリカ・リアリズム法学との異同,(2)法学・社会・経済学における「制度学派」との異同,(3)脱構築的批判法学派との異同,(4)「新しいリアリズム法学(New Legal Realism)との異同,(5)ガバナンス論との異同,など,他の法学的諸傾向との比較検討を行う。(2)財産制度論については,(1)古典的著作 e.g. Atiyah,The Rise and Fall of Freedom of Contract; Waldron, The right to Private Property; 森村進『財産権の理論』Vandevelde, "The New Property of the Nineteenth Century; "Singer, "Entitlement: The Paradoxes of Property",岡田与好『経済自由の思想』,柳瀬良幹『人権の歴史』,渡辺洋三『財産権論』などを丹念にフォローする。(2)より具体的には,貧困削減プログラムとして途上国・アメリカでも注目されている,CCTs(Conditional Cash Transfers 条件付現金給付)制度に着目する。実際,アンガーの母国ブラジルでは,貧困層の家庭に現金支給をする場合,例えば"子どもの学校への出席率を○○%以上にしなければならない"などの条件を付け,当局に報告義務を課したうえで,条件をクリアしている家庭に当該現金を支給するという社会保障制度が実施されており,こうしたわが国ではまだ十分に研究されていない社会保障制度を研究することを通して,財産制度の別様のかたちについて構想力を高める。
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次年度の研究費の使用計画 |
(1)物品費:設備備品として,大型図書:重要論文集成(50千円~100 千円)×3 分野(法・社会・政治理論の各分野)=150 千円,消耗品として,小型図書:重要文献3千円×100 冊=300 千円,雑誌記事:月7.5 千円×12 ヶ月≒100 千円。合計およそ550 千円の使用を計画している。 (2)旅費:研究会・資料収集:平均35 千円×年間10 回=350 千円, 国際学会への参加:年間150千円の使用を計画している。 (3)人件費・謝金:専門知識・情報提供への謝礼:50 千円×2人=100 千円の使用を計画している。 以上,合計800千円の使用を計画している。
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