本年度は,以下のように,(1)前年度に引き続いて,批判法学の太祖Roberto Ungerの法律学方法論の研究をすすめると同時に,これを日本の具体的な文脈に接続することを試み,かつ(2)Ungerの初期の著作Knowledge and Politics(1975)を主なテクストとしながら,今日の規範理論の課題とは何かに関する報告を行った。 (1)につき,「Roberto Ungerの制度構想の法学についての一試論-わが国の文脈(公私協働・交錯論)へと接続する試み-」を公表した。本論文は,“What Should Legal Analysis Become?”においてUngerが展開している制度構想論を明らかにするとともに,このUngerの制度構想論の視角から近年のわが国の法学者の革新的労作の意義を読み解こうとしたものである。本論文が注目した民法学の内田貴教授の「制度的契約論」・憲法学の井上武史准教授の「結社からの自由論」らは,「公(法)私(法)の協働・交錯論」という昨今の理論的動向とも共鳴しつつ,新しい法レジームを再発見・再構築しようとする試みであり,Ungerの提案する“制度構想の法学”の模範的遂行に他ならない。このように,近年のわが国の法学者たちの最良の仕事は,明確に意識しているとしていないとに関わらず,法的思考の精髄としての“制度構想"を既に常に遂行しており,これらの研究を模範としながら,私たちは,より明確な方法論的自覚を持って,より積極的に制度構想・提言を行っていかなければならない。これが本論文の主張である。 (2)つき,岡山大学キャンパス・アジア共通善国際シンポジウムにおいて,UngerのKnowledge and Politicsを下敷きにしながら,“善き生”・“共通善”という概念の見直し・再構築が今日的の規範理論の課題であると主張する報告を行った。
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