代位責任法理の発展過程を解明するため、代理商に着目し、英国における商業関係資料の調査・収集、検討を行った。初年度となる本年は、裁判文書や制定法集などの法律関係文書をもとに、大法官府における商人、商事関係の事例の検討を中心に検討を進めた。その結果として以下の点について手がかりを得た。1.商慣習と自然法の関係についての裁判所の見解、2.商人が有する保護通行証と国王の権威との関係、3.保護通行証と大法官府における救済の可否、4.商慣習による紛争解決システムとコモン・ロー・システムの関係、5.商業事件の大法官府への移送について、6.海上や港における紛争・事故と裁判所の関係およびその役割、7.外国商人の裁判権について、8.商人と金銭債務訴訟、9.ユースの利用と商業上の担保。当初、代理商について検討を開始したのだが、一連の作業を通じて、商慣習とコモン・ロー・システムの関係について、資料の調査・検討が不可欠であることが分かり、商業をめぐる社会構造を、大法官府の役割・位置づけとの関係から解明する方向で研究を進めているところである。また、商慣習がコモン・ローに吸収されたという通説に対して、手形・為替の発展を手掛かりに通説への疑義を呈したロジャーズの主張を踏まえた上で、商慣習とコモン・ロー・システムの関係を再考すると同時に、代理商の法的な意義・役割の発展経緯について、さらに詳しく資料を分析し検討を加える準備を整えた。
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