研究課題/領域番号 |
23730013
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研究機関 | 神戸学院大学 |
研究代表者 |
和仁 かや 神戸学院大学, 法学部, 准教授 (90511808)
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キーワード | 法制史 / 日本史 / 琉球史 / 法継受 / 国学 / ドイツ |
研究概要 |
本研究の二年目に当たる本年度は、引き続き前年度までの調査を継続する一方、それを支え構築する基盤となりうる理論的枠組の強化ないし研究視角の複眼化につとめた。まず前年度に行った、明治前期において編纂された律的刑事法典とも対照させた上での「琉球科律」に関する分析を進めつつ、当該法典が生み出され運用されていた政治・社会構造と具体的に関連づける作業も行った。この成果の一部は、琉球史に関する総合的な研究を法制史の立場から評した書評「梅木哲人著『近世琉球国の構造』」というかたちで公表した。かかる法制史と歴史学とを架橋する試みは、法を受容する基盤の解明という本研究全体の目的からきわめて重要であるので、引き続き最大限の留意につとめる。 また7月には、予てから依頼のあった法史学史に関する招待講演(「石井紫郎先生喜寿記念シンポジウム・パイオニアの系譜」における「宮崎道三郎の法史学」)を行い、さらに同講演に基づいた論文「宮崎道三郎と伴信友の「カササギ」─法制史学黎明期への一アプローチ─」を執筆した。これにより、本研究の主たる問題関心である西洋近代法継受の前後に跨る法構造・法システムの基層が、学問史・思想史の側面からも一層明確となり、現在収集中の在地の不文規範、すなわち伝統的な法慣習・法意識という素材を複眼的かつ理論的に構築する上で不可欠の視座を得るに至った。 またこうした研究成果の、一般向けへの積極的な発信も引き続き心がけた。地域住民を対象とした招待講演(神戸学院大学土曜公開講座(2012年5月26日))において、「処罰か福祉か─人足寄場の社会政策」と題して、江戸時代の刑事政策における思考のあり方を分かりやすく解説したのはその一例であるが、西洋法継受以前の法制度運用の実態を伝えることができたと思う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、現在の日本における法制度が直面している大きな変革、とりわけ極端なまでの「法化現象」─これが従来の成文法規範をめぐる理解ないしそれを前提とした「成文法主義」なる原則に対する再考をも促す、法構造の根幹部分に関わる重大な変化であることは言うまでもない─が齎すであろう帰結につき、現行法の土台をなす西洋法継受以前の近世日本で培われた様々なレヴェルにおける成文法規に対する理解を精密かつ具体的に分析することによって、法制史学の立場から、成文法典という形態の法がもつ意味合いを改めて再検討し、複眼的な見透しを提供することを目的とするものである。 現在までのところ、本研究の基礎的理論を固める作業は、順調に遂行している。とりわけ本年の成果としては、学問史・思想史・社会史・言語学といった他分野に跨る視座、ひいては前提として西洋法システム及び関連する学問の影響にまつわる通説的理解を抜本的に見直す必要性をも具体的に明らかに出来たことが挙げられよう。これは法継受の基盤を出来るだけ多角的に検討するという本研究の趣旨に照らしてきわめて重要な意義を有するのみならず、今後の研究の新たな発展の足掛かりを提供するものであるともいえる。 他方で、予定していた兵庫県内における幾つかのフィールドワークについて、所属機関における業務等の時間の制約により実施できなかったものもある。しかしながら、フィールドワークを実施するに当たっての準備作業(大まかな資料状況に関する見通しや基礎的資料の分析など)はほぼ順調に進んでおり、かつ先述の通り研究の基礎をなす理論に関して得られた進展に鑑みるに、研究期間全体を通じて見れば、大きな遅滞とは言えないであろう。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の三年目に当たる本年度は、兵庫県内でのフィールドワークに基づく調査に力を入れつつ、それらの素材を活用したWebコンテンツの作成作業に本格的に着手する予定である。従ってこの作業のために、引き続き文献調査も含めた資料の収集に従事する一方、ここまでで得られた資料の整理及び分析作業を、適宜専門家や補助者の助力も仰ぎつつ積極的に進めていきたい。 同時に、本計画の前半期で得られた重要な視角である、成文規範化をめぐる、いわば為政者側の知的営為に関する知見、及び基礎理論をさらに深化させ、充分に活用することに努める。昨年度の研究では、江戸時代後期に、藩政の担い手でもあった伴信友が展開した考証学の伝統が、西洋法継受に基づく近代法形成の基盤にクルーシャルな影響を及ぼしていたことが明らかになったが、今年度はその実相をより具体的に詰めていく。他方で、近代日本に重要なモデルを提供した欧米、とりわけドイツを主とするヨーロッパ大陸の法史学及び法学・歴史学・言語学の学問史に関する研究の積極的な比較参照も推進していく。これもまた、昨年度の研究で明らかにしたところの帝国大学関係者─彼らは同時に国家制定法形成の担い手でもあったわけだが─における受容のあり方という観点のみならず、本研究をできるだけ法史学のグローバルな文脈に具体的に位置づけるための準備作業としても進展させたい。かかる作業は、地域的社会的特性に顧慮した上で、受範者側の成文法に対する意識を、より体系的かつ複眼的に理論化するという本研究の目的ためにも不可欠といえよう。 またこうした研究成果は、前年度までと同様に、一般向けにも分かりやすく様々な媒体で積極的に公開し、その反応をまた研究に反映させるという、インタラクティヴな手法を意識的に活用することも心がけていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究の三年目に当たる本年度は、兵庫県内でのフィールドワークに基づく調査に力を入れつつ、それらの素材を活用したWebコンテンツの作成作業に本格的に着手する予定である。従ってこの作業のための準備費用、たとえば文献調査も含めた資料の収集に関わる費用、及びここまでで得られた資料の整理及び分析ないしコンテンツ作成に関する費用を、専門家や補助者の助力に対する謝金も含め、さらには一般向けへの分かりやすい発信をも念頭に置いた上で見込んでいる。 同時に、本計画の前半期で得られた重要な視角及び基礎理論を深め、活用するための費用も見込む。具体的には、伴信友を中心とする考証学的手法を重んじた国学に関する研究のための史料収集および調査、またその伝統に強く規定された宮崎道三郎を中心とする帝国大学関係者に関する研究のための資料収集・調査費用、さらには論文執筆・公刊のための費用を計上する。 他方で、近代日本に重要なモデルを提供した欧米、とりわけドイツを主とするヨーロッパ大陸における法史学及び法学・歴史学・言語学の学問史研究の積極的な比較参照を推進するために、これらに関する外国語文献資料の調査・収集費用も見込んでいる。かかる比較研究は、本研究の基盤を強化するというのみならず、本研究を法史学、ないしその周辺領域分野に跨ってのグローバルな文脈に具体的に位置づけ、新たな展開を齎すものともなりうるものである。従って、研究の進展状況によっては、積極的にドイツに出向いた上での文献収集ないし現地の専門研究者から直接研究上に不可欠な助言を求めることもあり得ると考え、その際の渡航費用等の諸経費も見込んでいる。
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