研究課題/領域番号 |
23730014
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研究機関 | 札幌学院大学 |
研究代表者 |
坂東 雄介 札幌学院大学, 法学部, 講師 (50580007)
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キーワード | 国際情報交換 |
研究概要 |
研究実施計画では、平成24年度は、アメリカ合衆国において、外国人の在留を判断する際に、家族関係の利益が、どのような背景のもとで考慮されるようになり、また、どのように位置づけられてきたのかを明らかにすることを計画していた。 研究成果としては、坂東雄介「アメリカ合衆国移民法における「家族関係の維持」規定と「絶対的権限の法理」の射程範囲」札幌学院法学29巻2号101頁(2013年)を公表した。この論文の内容は、次の三点に要約できる。第一に、連邦議会が、1965年移民法改正以降、「家族関係を維持する利益」を正面から承認し、それを実現するための政策を実施してきた。第二に、判例は、家族関係が問題となる事案についても、絶対的権限の法理―これは、移民法については連邦議会の判断を「絶対的(plenary)」と捉える考え方である―を修正しているが、価値論を正面から持ち出すのではなく、価値論を背景に抱えつつ、絶対的権限の法理の射程を限定する発想を有している。第三に、絶対的権限の法理の射程を限定する見解として、後半では、一見すると移民法の領域に属するように見える規定であっても、実際上は家族関係を規定しているのであって、この場合は絶対的権限の法理の適用対象には含まれないとする見解(この解釈論は、Kerry Abramsが提唱している)を紹介した。 この研究は、アメリカ合衆国の移民法において家族関係を維持する規定・判例・法解釈を紹介すると同時に、日本法において、在留可否判断について法務大臣が有する広範な裁量(最大判昭和53年10月4日参照)を、家族関係の維持という目的から統制する理論を提唱するための土台作りになるという意義及び重要性を有する。 補足として、アリゾナ州の外国人労働規制に関する判例研究([2012-1]アメリカ法168頁)も公表できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は、当初の予定では、夏季休暇中(8、9月)または冬季休暇中(2、3月)にジョージタウン大学の国際移住研究所(ISIM)を2週間程度訪問し、資料収集及び同研究所所属の研究者とディスカッションを行う予定であった。しかし、夏季休暇中は、所属機関である札幌学院大学の研究費及び学内制度を利用してシドニー大学ロースクールに約一ヶ月滞在したことによって、アメリカ訪問は達成できなかった。シドニー大学訪問は、前年度の【12.今後の研究の推進方策】にて書いたように、オーストラリア法研究を行うための端緒である。冬季休暇中は、所属機関の変更(札幌学院大学から国立大学法人小樽商科大学へ)の準備作業のため、十分な時間的余裕を確保できなかったことによる。 日本国内の研究機関を短期間訪問し資料収集を行うこと、及び学会参加については十分に達成できたと言って良い。特に、日本公法学会(10月)及び国際人権法学会(11月)にも参加し、在留関係の法理論について、最新の知見を得られたことは大きい。 研究業績の公表については、【研究実績の概要】に書いたように、論文を学内紀要に公表できた。また、それ以外にも、平成23年度の研究成果として、坂東雄介「外国人に対する在留特別許可における親子関係を維持・形成する利益―近年の3判決を素材として」札幌学院法学29巻1号93頁(2012年)も公表できたことを付け加えておく。もっとも、平成24年度に公表できた2つの論文は、十分な資料収集及びアドバイスのもとに書かれた論文ではなく、研究実績としては満足できる水準には達していない。機会があれば、さらなる知見を踏まえ、修正の上、改めて別稿を公表したい。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定では、平成23年度及び平成24年度の研究成果を元に、外国人の在留可否判断について、家族関係の維持という利益が法的にどのように位置づけられてきたのか、という点から日米比較を行い、日本の裁判例において考慮すべき具体的要素(条文、条約など)を抽出し、特定化した論文を執筆する予定であった。 平成24年度の【現在までの達成度】において記したように、平成24年度に公表した論文は、十分に満足できる水準には達しなかった。そのため、平成25年度は、論文の修正を行い、修正したものを前提として、当初の研究計画にあるように、日米比較を行った論文を執筆及び公表する予定である。 さらに、平成23年度の【今後の研究の推進方策】及び平成24年度の【現在までの達成度】において記したように、現在は、アメリカ移民法だけではなく、オーストラリア法にも関心を持っている。オーストラリアは、アメリカ合衆国と同じく移民を積極的に受け入れる国であると同時にコモンロー体系に属するが、法体系の発展の仕方は独特の特徴(特に基本的人権の保障規定が無い点)がある。平成25年度は、平成26年度に行う研究へつなげるために、オーストラリア法研究のための土台作りを行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の研究を遂行するためには、日本法及びアメリカ法・オーストラリア法に関する資料収集が必須である。このような資料は、所属機関の図書館及びデータベース、無料で公開している関係ウェブサイト(アメリカ法については、イェール大学のAvalon Projectやコーネル大学によるLegal Information Institution、オーストラリア法についてはAustralasian Legal Information Instituteなど)でも入手できるが、これだけでは不十分である。そのため、関連領域における書籍の購入及び他の文献複写依頼が必要である。平成25年度の研究費は、主に、そのための費用として用いる。 また、研究上の知見を獲得するために、国内外の研究機関に直接アクセスし、資料の閲覧及び収集を行うことも必要である。訪問先としては、国立国会図書館のほか、アメリカ太平洋地域研究センター(東京大学)、立教大学アメリカ研究所、同志社アメリカ研究所、オーストラリア研究所(追手門学院大学)などを予定している。このように、訪問先は、関東、関西と多岐にわたっているため、そのための旅費、滞在費及びコピー代として研究費を使用する予定である。国外の研究機関としては、ジョージタウン大学を予定している。 さらに、最前線の知見を獲得するためには、学会(特に、日本公法学会、国際人権法学会)への参加も必要である。そのための学会費及び学会参加の旅費としても研究費を使用する予定である。
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