本研究では、出入国管理の領域において、立法・判例が、家族関係を維持する利益をどのように位置づけてきたのかについて、日米比較を行うものである。まず、アメリカ合衆国においては、1960年代以降、家族関係を維持する利益が立法にも反映され、裁判例もそれを取り込んだ判決が下されているが、絶対的権限の法理(出入国管理・国籍の得喪に関する権限は国家主権に基づく絶対的なものであって憲法による統制に馴染まないとする考え方)を直接的に修正するものではなく、事案の区別により絶対的権限の射程を限定していることを明らかにした。 日本法の領域では、在留特別許可の判断の際に、家族関係を維持する利益が考慮され、その具体的な考慮のあり方を検討した。そして、在留特別許可訴訟において、子どもが家族と分離する状況になった場合、裁判例は、おおよそ15歳を目安として、分離の有無を決定していることを示した。そして、退去強制訴訟に関する執行停止・仮の義務付けなどの仮の権利救済の場面では、平成16年行訴法改正の影響の下、家族関係を維持する利益が従来よりも拡張される場面を示した。 上記の成果を踏まえ、最終年度には、坂東雄介「国籍の役割と国民の範囲―アメリカ合衆国における「市民権」の検討を通じて―(7・完)」(北大法学論集65巻6号139頁(2015年))を公表した。 今後は研究の視点をオーストラリア移民法・市民権法に移し、絶対的権限の法理をどのように統制するのかを検討する予定である。
|