本年度も、早稲田行政法研究会、イギリス行政法研究会、行政法研究フォーラム等への参加を通じて、日英における自治体財政に対する監査制度にかかわる知見を広げることができた。また、イギリスの地方行政法及び自治体会計監査制度にかかわる文献収集を行い、とりわけイギリスにおける今日の(1970年代以降の)自治体の財務会計行為に対する外部監査制度を通じた裁量統制について、その判例理論の変遷を歴史的観点から検討を行った。また、近時の会計監査委員会廃止に象徴される自治体外部監査制度改革の動向についての分析も行った。 その結果、イギリスにおける自治体の財務会計行為は、19世紀においては法人財産に対する受託者の義務の適用という形で統制されていたが、地方団体が国会制定法にその根拠を有する今日的自治体として再定義されるようになる19世紀末以降は、今日に至るまで、いわゆるアルトラヴァイリーズの法理が財務会計行為を含む自治体の諸活動に適用されるようになっていること、但し、自治体の財務会計行為の裁量統制に関して言えば、前者は後者を判断する際の考慮事項として包摂されていることなどが明らかとなった。 また、近時の会計監査委員会廃止の議論は、オーディターによる会計監査制度のあり方に問題があるというよりは、むしろ、会計監査委員会がかかわる自治体の活動に関する業績評価(能率監査)制度、とりわけ、その結果が国庫から自治体へ配分される補助金の増減に連動する「包括的地域評価(Comprehensive Area Assessment: CAA)」という仕組みが、自治体の裁量権拡大という近年のイギリス地方分権改革の動向にそぐわないとみなされていることに起因する部分が大きいことなどが明らかとなった。
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