研究課題/領域番号 |
23730023
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
井上 武史 岡山大学, 社会文化科学研究科, 准教授 (40432405)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 憲法 / 結社の自由 / 非営利団体法 / 公益法人制度改革 |
研究概要 |
本研究課題の全体構想は、憲法上の結社の自由の観点から非営利団体法制を再構成し、わが国において「結社法」「非営利団体法」という新たな法領域を開拓することにあるが、初年度である今年度は、わが国における結社の自由論の基盤やその展開の特徴を比較法的に明らかにする作業を行った。具体的な方法としては、結社の自由の誕生とその後の展開において独自の道を歩んできたアメリカとフランスの2つの結社の自由論を取り上げ、それらを比較検討することによって、日本における結社の自由論の可能性や方向性を展望することを試みた。申請者は元来、フランスの結社の自由論を専門としてきたが、研究遂行中に、アメリカの結社の自由論の研究者と対論する機会に恵まれた。これを契機として、フランスとアメリカでは、公共空間で個人の価値観の現出が認められるか否かによって、中間団体の位置づけ、さらにはそれを認める結社の自由の意味が異なることを明らかにした。具体的には、公共空間における価値観の主張を認めるアメリカでは結社の自由に寛容な態度が認められてきたが、フランスでは反結社の態度がとられてきた。他方で、フランスのあり方は公共空間の設定段階で、国家の側から特定の価値観(共和主義)の設定が行われており、中間団体による価値観の主張とは潜在的に緊張関係に立つ。これら対極にある2つの結社の自由論の位相を前にして、日本の結社の自由論がどのような基盤に立脚し、どのような文脈で展開されるべきかという問題意識が存在することを指摘し、そして、この点の理解が、具体的な制度設計にも影響を与えるのではないかとの問題提起を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
非営利団体の公益活動を支える制度的基盤を検討するには、それを背後で規定する公共空間や中間団体がどのようにあるべきかを考察することが不可欠である。本年度は次年度において具体的な制度分析を行う予備的作業として、非営利団体の存立を根拠づける結社の自由について、どのような解釈の仕方がありうるかを、それぞれ同自由に関してモデルを確立しているアメリカとフランスを対比するかたちで検討した。また、本研究課題が比較法の対象とするフランス法について、現地で文献・資料の収集を行い、次年度以降の研究遂行のための環境整備を行うことができた。それゆえ、当初の計画以上の成果をあげたとまでは言えないまでも、初年度の成果としては目的をおおむね達成していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究で得られた視点と論点、問題意識を基にして、次年度は、本研究課題の目的である、非営利団体の公益活動支援制度のあり方を分析・検討する。ここで念頭に置いているのは、非営利団体に対する財政支援制度、具体的には補助金制度や優遇税制措置であるが、これはより大きな視点からは、公権力と非営利団体との法的関係のあり方にかかわる問題である。この点については、研究計画書でも記したように、フランス近年出版されたM. Long, Associations et pouvoirs publics(2010)という先行研究があるので、この文献を手掛かりとして、比較法的検討を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度と同様、今年度も本研究課題を遂行するための文献・資料の収集を中心に、研究費の執行を行う予定である。また、今年度もフランスの専門家との研究打ち合わせ、および関連文献資料の収集のために、海外調査を行うことを予定している。
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