研究課題/領域番号 |
23730025
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
赤坂 幸一 九州大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (90362011)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 憲法 / 議会法 / 議会 / 官僚 |
研究概要 |
本研究においては,従来全く未解明の状態におかれてきた,衆議院事務局による先例集(議会先例)の形成・運用過程を解明することを目的とするとともに,併せて,国会法・議院規則の制定・運用の在り方を明らかにすることを通じて,我が国の議会法・議事法が内包する特質・問題状況を明らかにすることを,主たる目的とした。 そのため、先例集・議事法の形成にかかわってきた議会実務者への聞き取り調査を精力的に行い、下記のような4件のオーラルヒストリー報告書を刊行したほか、従来のオーラルの成果を広く一般に還元し、議事法・議会法に関する研究基盤を拡充するという観点から、今野シゲ男氏(衆議院事務局議事部副部長)および近藤誠治氏(衆議院事務局議事部長、初代調査局長)のオーラル・ヒストリーをブラッシュアップし、関連する資料を補充して、広く一般に刊行することとした。併せて、衆参両議院の事務総長経験者のオーラルヒストリー報告書をブラッシュアップした一般書籍も刊行準備中であり、さらに、参議院委員部長として議事法規に精通した川上路夫氏からの聞き取り調査については、現在も継続して実施中であり、特に参議院委員部の運営や変遷について、包括的な聞き取り調査を実施することができている。2012年度中にはこの調査も完了し、報告書として刊行できる見込みである。 このように、本研究では、従来学問的な研究があまり行われてこなかった「議会官僚」の存在に焦点を当て、議会運営や議事法の形成過程においてこれらの「議会官僚」が果たす役割をクローズアップし、その衡量過程を解明することを通じて、憲法学の一領域たる議会法の領域に、実務的な視点をも取り入れながら、初めて本格的に研究の光を当てることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究においてとくに重点的に進める諸点について、以下の通り3点に分けて、現在の達成度に係る自己評価を行う。 第一に、本研究においては、帝国議会時代の各派交渉会資料を分析することによって、従来の公刊資料からは判明しなかった立法・政治過程の裏面を解明し、より立体的な憲政史像を提示することを一つの目的としているが、これらの史料については、衆議院事務局の協力のもと、包括的な目録を刊行することができ、実際にこの資料を用いた他の研究者の研究事業も開始されている。帝国議会期および現行憲法制定時の議会運営の新たな資料を整備し、研究基盤の拡充を図ることができたと言えよう。 第二に、同様の観点から、日本国憲法の制定過程を各派交渉会資料等の議会側未公開資料を用いて実証的に明らかにし、政府・GHQ側から描かれてきた憲法体制成立史を新たな角度から検証しようとする点については、参議院側および他の公的機関、並びに民間の新たな関連資料が併せて発見されたことから、2011年度はその整備作業を行った。2012年度において、その本格的な研究に着手する予定である。 第三に、議会事務局の役割を、資料研究及びオーラル・ヒストリーの両面から解明し、さらに諸外国の例と比較照合することにより、比較議会(法)学・政治史学に新たな研究地平を開拓しようとする点については、上述の通り、2件の書籍および4件の報告書を刊行することができたほか、とくに議会官僚の役割に焦点を当てた本格的な歴史的・比較憲法史的な観点からの論稿2本を公表した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、議事法・議会運営の実務者の聞き取りを進める一方で、両議院の事務局や民間機関等に遺された諸文書を用いて、我が国の先例集・議会法の形成過程の中で、我が国の議会法に固有の特徴を――比較憲法史的に――描き出すことを試みる。とくに、『先例改訂理由』の分析や、いわゆる『桂メモ』の分析、また、類似の先例集の比較分析という手法によって、フランス型先例集から発展したわが国の議会先例がどのような発展を遂げたかが立体的に解明されるとともに、そのような議会法の「政治法」droit politiqueとしての固有の存在に焦点を当て、その憲法的特質を解明することを試みる。なお、このような法現象への着目は、とくに近年のフランスでも注目を集めているところであり、また、我が国の憲法学においても導入が試みられているものである。
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次年度の研究費の使用計画 |
主として聞き取り調査に要する謝金や、そのテープ起こし代金、および旅費が、第一の支出対象としてあげられる(約35万円)。加えて、上記の各種報告書の刊行費用、および、一般書籍化に際しての生か公表に要する費用など(約15万円)があるほか、議会法・比較憲法史関係の関連文献を購入する費用が必要となる(約7万円)。
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