研究課題/領域番号 |
23730030
|
研究機関 | 長崎県立大学 |
研究代表者 |
實原 隆志 長崎県立大学, 国際情報学部, 講師 (30389514)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 憲法 / 人権 / プライバシー権 / 情報自己決定権 / ドイツ / 監視 |
研究概要 |
本研究は、高度情報社会において公権力が、私生活の核心に関わる重要情報から、私生活とはほとんど関わらないような些細な情報まで、国民のあらゆる個人情報を収集・保存できるようになったことを背景としている。そこで、それ自体としては重要とは思われない情報であっても、それを大量に収集・保存することの問題に焦点を当て、この問題に関する日本とドイツの状況を比較することで、その憲法学上の問題について検討することを、研究の目的とした。 2011年度は、まず4月から9月までドイツ国内で在外研修を行った。また、3月にもドイツに出張し、そのようなドイツ国内での研究を通して、ミュンヘン大学の関係者と意見交換を行う機会をもった。在外研修においては、ドイツ連邦憲法裁判所の前長官である、ハンス・ユルゲン・パーピア教授の講座において研究を行った。その際には、主にドイツ語で書かれた文献を用いた研究を行い、それと並行して、同教授からはもちろんのこと、そこで勤務している助手等から、ドイツの憲法をめぐる現状について、情報を収集した。 10月に帰国したのちには、日本国内において、ドイツ語で書かれた文献に加え、邦語で書かれた文献も使用して研究を進めた。10月に行われた公法学会や全国憲法研究会、月例で行われている憲法理論研究会やドイツ憲法判例研究会など、各種の国内の研究会に参加し、他大学の憲法研究者との意見交換も行った。 3月には、物理的な強制力を伴わない措置に対する法律的根拠の必要性について、研究会報告を行った。これは第一の研究テーマとしての「近代国家における基本的要請としての、具体的な法律上の根拠」に関わる報告であり、主に日独両国の判例の比較を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究においては3つの論点について明らかにすることを目的とした。(1)「近代国家における基本的要請としての、具体的な法律上の根拠」、(2)「情報が収集されることで発生する危険」、(3)「何が憲法に関連する問題なのか - 情報の収集なのか、保存なのか、利用なのか」の3点がそれにあたる。3月に行った研究会報告は、物理的な強制力を伴わない措置に対する、具体的な法律上の根拠の要否について検討するものであり、上記の論点のうち(1)に該当するテーマに関わるものであり、その点についての研究目的を、まずは達成できたといえる。 研究方法については、(1)具体的な法律上の根拠の必要性という観点での判例の分析、(2)情報収集の危険性という観点からの判例の分析、(3)学説を対象とした研究を挙げた。平成23年度においては、まず(1)の点について、研究会報告を行ったことになる。また、当報告においては、判例の分析とともに、両国の刑事訴訟法学説、憲法学説の比較も行った。それゆえ、平成25年度に行う予定であった(3)に関する研究も、一部は達成できたといえる。 本研究は実務への還元も目的としていたが、帰国後も各自治体の情報公開・個人情報保護審査会の委員として活動したため、その目的も相当程度達成できたと思われる。 また、研究方法としては「他の研究者、研究分野との関わり」も挙げたが、「国内の研究会を活用した研究」は、10月以降に十分行うことができた。さらに「ドイツ国内の専門家との関わり」という点についても、前期期間中のドイツでの研修、また、3月に行ったドイツ出張の機会に、ミュンヘン大学の関係者と意見交換を行うことで、研究方法についても研究計画を達成しているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度も引き続き、日本語やドイツ語で書かれた文献研究を中心に行う予定である。また、国内外での研究会にも参加する。 平成23年度時点で成果が未発表である研究として、「情報が収集されることで発生する危険」に関するものと、「何が憲法に関連する問題なのか - 情報の収集なのか、保存なのか、利用なのか」に関するものが挙げられる。研究は当初の計画通り進んでいるため、まずは前者のテーマについての研究を進める予定である。 同様に、計画していた研究方法のうち、「情報収集の危険性という観点からの判例の分析」は、今のところ完了していないため、こちらについても当初の計画通り、平成24年度に行う。また、「学説を対象とした研究」の一部はすでに終えているが、情報収集の危険性について指摘している学説についても、引き続き研究を進める。 平成23年度とほぼ変わらない点として、まず、各種審査会という実務面に活用できる研究が挙げられる。また、研究会への参加を通じて国内外の研究者と意見交換をする機会が多いと思われるので、それについても継続する。 なお、平成23年度中に行った研究会報告や研究について、それを公表するための準備も行いたい。各種紀要や雑誌など、投稿が可能な媒体はいくつかあるため、論文の提出期限なども勘案しながら公表に努めたい。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度においては、前年度とほぼ同様の形で研究費を使用することになると思われる。主な使途としては、法律学に関する日独両国の文献の購入と、国内外への出張旅費としての支出がある。いずれも大幅な増額・減額は想定しがたく、十分な研究が行えると思われる。それと並んで、各種通信費を加えたものが、今年度の支出になる予定である。
|