研究課題/領域番号 |
23730030
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研究機関 | 長崎県立大学 |
研究代表者 |
實原 隆志 長崎県立大学, 国際情報学部, 准教授 (30389514)
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キーワード | 人権 / 監視 / 憲法裁判所 / 刑事手続 / 個人情報 / ドイツ |
研究概要 |
本研究は、高度情報社会において公権力が、国民の個人情報を扱う場合の問題を研究対象としている。平成24年度の研究においては、公権力が情報を収集する危険性についての検討を、主な課題とした。 警察や公安をはじめとする、国や地方公共団体の行政機関による情報収集は、国民の憲法上の権利という観点で重要な意義を有する。公安による情報収集は、一定の個人イメージの形成につながるものであり、場合によっては「レッテル張り」にもなる危険性がある。また、警察による情報収集は、その対象となった個人を「犯人扱い」することになる危険性をもつものである。 平成24年度の研究においては、主に通信傍受や室内での会話の盗聴と措置に対する権利保護を主な検討課題とした。通信傍受法は日本においても制定済みであり、最高裁判所による判例があるため、それらの研究と検討を行った。その一方で、室内での会話の盗聴は現在のところは行われていないが、政府の審議会においては導入の是非も検討され始めている。これらの措置は、すでにドイツにおいては行われており、連邦憲法裁判所の判決も少なからず出されている。ドイツにおいては、盗聴の対象となっている通信や会話に、犯罪に関連している情報があるかどうかは、実際に盗聴を行ってみなければわからないという問題が活発に議論されている。仮に、犯罪に関連のない通信・会話であることが判明し、データが削除されるとしても、いったんは警察や公安によって知られてしまうという問題である。 ドイツの判例・学説の研究を通じて、たしかに「いったんは知られてしまう」という問題はあるものの、依然として「知ってはいけない」という場面がなくなったわけではなく、また、一定の空間や通信が絶対的に保護されるわけではない場合であっても、それに対する審査はドイツにおいては厳格であり、恐らく今後もそうであり続けるだろうとの見解をもつに至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成24年度中に行う研究の主な目標として、公権力が情報収集を行う場合について、日独両国の判例を比較・検討することを挙げていた。公権力が国民の個人情報を収集する場合にとどまらず、公権力が個人情報を保存・利用しようとする場合に生じうる問題についても検討することは、平成25年度の課題として挙げていたが、平成25年度中に行う予定であった研究の一部も、平成24年度中に行うことができた。 また、平成23年度に行う研究においては、国や地方公共団体の機関が、国民や住民といった個人の情報を収集する際に、その根拠として、具体的な法律が制定されている必要があるかどうかという観点から、日本の各最高裁判所とドイツ連邦憲法裁判所おける判例に関する分析を行うことを予定していたが、それについても研究を完了することができた。また、学説についての検討もすでに行うことができたため、平成23年度・平成24年度に行われるものとして当初計画していた研究計画と比較した場合に、これまでの研究は、本研究を開始した時点で予定していた以上に、順調に進展させることができたと言えると思われる。 これらの論点についての研究方法としては、日本の文献やドイツの文献を講読することを通じた文献研究や、日本国内の各種研究会に参加することを通じた研究を予定していた。さらには、ドイツ国内において、特にミュンヘン大学の法学部資料室における文献収集や、同大学法学部の関係者との間で行う、情報交換も予定していた。いずれについても平成24年度に行うことができた。研究の方法という観点においても、本研究は順調に進展していると言えると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度においては、公権力が国民の個人情報を収集する場面だけでなく、それを保存したり、利用したりする場面に生じうる問題についても研究を進めたい。特に、ドイツ連邦憲法裁判所は、2013年4月24日に「アンチ・テロ・データ」を運用する根拠となっていた法律の一部を、憲法に違反すると判断した。 この制度は、連邦刑事局や憲法擁護庁といった、ドイツの連邦や、ドイツ国内の各州の、少なからぬ行政機関が、ドイツが巻き込まれるおそれのある、国際テロと関係しそうな情報を、共有することを目的として導入された制度である。連邦憲法裁判所で行われた審理において、連邦政府は、この制度の運用にあたっては、新たに情報が収集されるわけではなく、すでに収集され、各行政機関において管理されていた情報を利用するに過ぎないのであって、基本権に対する侵害という観点での重大性は低いのではないか、と述べていた。上述のように、この制度についてドイツ連邦憲法裁判所は、一部を違憲としたが、この制度をめぐる状況や理論は、平成25年度に当初予定していた研究テーマと密接にかかわっているということができるため、平成25年度においては、アンチ・テロ・データに関する研究から始めることで、公権力が個人情報を保存・利用、もしくは共有することの問題点等について検討したい。 研究方法としては、平成24年度と同様に、日本とドイツの文献講読を通じた研究を中心に行い、日本国内で開かれる各種研究会への出席、また、ドイツ国内での文献収集や専門家との情報交換を行いたい。平成25年度においても、ドイツ・ミュンヘン大学法学部での作業が中心になると思われる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度においては、24年度とほぼ同様の形で研究費を使用することになると思われる。主な使途としては、法律学に関する日独両国の文献の購入と、国内外への出張旅費としての支出がある。いずれも大幅な増額・減額は想定しがたく、十分な研究が行えると思 われる。それと並んで、各種通信費を加えたものが、今年度の支出になる予定である。
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