2011年度と2012年度の研究において、公的な機関が個人の情報を収集する際に個別・具体的な法律上の根拠が必要かという点、また、情報を収集すること自体の危険性といった観点から、日本とドイツの判例を比較・分析した。そこで行われた研究を基に、昨年度は学説の研究を加え、3年間の研究を総括することを目指した。文献講読を通じた研究が中心であったが、9月にはドイツに出張し、ミュンヘン大学の協力を得て情報収集や資料取集などを行った。 研究成果として論文を1本、判例の解説を日本とドイツのもの、それぞれ1本ずつ公表した。論文として公表したものにおいては、情報自己決定権などの基本権が何を保護しているのかを考える上で裁判所の役割について検討することが必要であるとの指摘を行った。判例の解説においては、日本の裁判所においては、警察などの公的機関が個人の情報を取得する際の危険性について、一定程度の配慮がなされているとはいえ、それが保存・利用されることによって個人に対して生じうる不利益については、あまり検討されない傾向もあることを紹介した。またドイツの判例を紹介するなかでは、ドイツの判例は個人情報が取得された後の保存・利用のあり方についても、その合憲性が審査される傾向があることの見解を示した。これらの点については以前の研究においても指摘していたが、論文においては学説における様々な指摘も紹介した。 昨年度の研究は、ドイツにおいては判例・通説ともに、個人情報が収集される危険性だけでなく、収集された情報の保存・利用にまで審査が及んでいることを、学説も参照することで明らかにし、それを日本において議論する際に取り入れることを一つの目的としていた。研究業績として公表した論文等において示したことは、昨年度に行われた研究の目的が十分に達成されたことを示しているように思われる。
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