本年度は、研究計画に従って、次の通りの研究を行った。 a)ハンス・ケルゼン、ルドルフ・スメント、ヘルマン・ヘラーらの憲法制定権力を巡る理論について、シーエスに代表される革命論との異同を含め、それがどのような位置関係にあるかを明確化した。その成果は、博士論文「カール・シュミットの公法理論―神学的伝統からの分出としての」としてまとめた。 b)ケルゼンの理論が、憲法制定権力(論)を否認するものであることに留意しつつ、また、「契約としての憲法」という憲法観があることを前提として、「pacta sunt servanda(契約・合意)は拘束する」という法格言を鍵として、そのpacta(契約・合意)論の特質を明らかにした。その成果は、論文「Funktionen des Vertrags im Volkerrecht; Die Bedeutung des Grundsatzes "pacta sunt servanda"」として公表した。 c)憲法制定権力論の神学的淵源について、キリスト教神学上の「creatio ex nihilo(無から創造)」論との関係について、後者がユダヤ教も含む一神教の伝統の中で、特に聖典を前提としない哲学の議論に対してどのような立論を行ったかを明示しつつ、まとめた。論文「憲法制定権力論の淵源―宗教・文明の交差がもたらす創造性―」として公表する(報告時点で未発行)。 昨年度の成果と合わせて、本研究は、a)憲法制定権力論の歴史的起源についてその範囲を大幅に広げ、b)特にワイマール期の憲法制定権力論に比すべき理論として、憲法改正(論)の本来の姿を明示するという結果をもたらすことができた。これにより、憲法改正論議に対して、そもそも憲法制定や憲法改正とはいかなる行為として論じられてきたのかを、理論の歴史の中から描出し、争点設定のための核を提供したものと考える。
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