研究課題/領域番号 |
23730037
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
猪瀬 貴道 東北大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 助教 (70552545)
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キーワード | 投資条約 / ISDS条項 / 仲裁手続 / 請求主体 / 国際投資法 / 投資紛争解決国際センター (ICSID) / 原告適格(スタンディング) / 私人の国際法主体性 |
研究概要 |
平成24年度においては、請求主体の制約の根拠としての「濫用」という概念について日本国際経済法学会の平成23年度研究大会における研究報告を研究論文としてまとめて、日本国際経済法年報第21号に「投資条約仲裁手続における請求主体の権利濫用による制約」として発表した。同論文では、濫用には、投資事業を行う会社の設立に関する濫用(実体的権利濫用)と請求を提起することの濫用(手続濫用)という2つの側面があるが、いずれも基準が明確ではないので、時間を基準として濫用とみなされる基準時を明確化する必要性を論じた。 また、関連する投資条約仲裁事例の収集および整理を引き続き行った。本年度前半には整理した資料の分析を完了させる予定であったが、関連する事例の数が当初の見込みより多数となっているため、仲裁事例の分析整理は継続中となっている。事例は、1. 請求主体、2. 根拠となる投資条約の関連規定、3. 請求内容・請求文言という3つの観点からの整理を行っている。事例に関連する二次文献(評釈等)についても収集を継続している。事例の分析による論点を整理を重点的に行なっている段階にある。 それと並行して、一部の論点については国際法上の一般的理論についての資料・文献の収集を開始している。とくに外交的保護手続における「請求国」「原告適格」の問題を扱う国内および国外の資料・文献を一定程度収集することができた。今後も資料・文献の探索を継続するとともに、収集した資料について分析および精読に取り組む。 このほかに、関連研究会などに参加して、本研究課題について、参加者から助言を受けるとともに意見交換を行うことで、研究内容の向上に努めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度前半において、投資条約仲裁事例の収集および整理を完了する予定であったが、事例の収集・整理は現在継続して行なっており、当初計画よりも達成状況は遅れている。ただし、相当数の事例については、関連する資料の整理、分析を行なっており、網羅的な検討には至っていないものの、一定の検討が行える状況にある。なお、関連事例の一つについて参加している研究会において検討も行なっており、事例紹介論文という形で公表を予定している。 また、本研究課題のひとつの論点として明らかにできた「濫用」概念による請求主体についての制約という問題については、平成23年度の日本国際経済法学会において行なった研究報告を論文としてまとめて平成24年度に公表することができた。 したがって、本研究課題の当初計画では、投資条約仲裁手続における請求主体について可能な限り網羅的な検討を目指すものあり、その意味では遅れているが、一部分を先行する形で研究を進めており、交付申請書に記載した「研究の目的」の達成度は、全体としては、おおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
投資条約仲裁事例の分析整理を完了し、関連文献とともに検討する。そこで明らかになった論点について、訴訟・紛争解決手続におけるスタンディングに関する一般的理論との比較から考察を加える。 紛争解決制度としての投資条約仲裁手続が、国際法上、どのように位置づけられるかを明らかにするという問題意識に基づき、国際法上のスタンディングの問題、とりわけ、会社の外交的保護における「会社の国籍国」による請求と「株主の国籍国」による請求の関係についての法理論について、先例、先行研究など従来の理論枠組を再検討する。 そして、投資条約仲裁事例の整理・分析から明らかになった個々の論点について、従来の理論との異同を明らかにし、その理由について考察する。 当初計画では論点を網羅的に検討することとしていたが、明らかになった論点から先行して検討していき、なるべく多くの論点に取り組むという方針で研究を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度請求額の次年度使用額は、当初計画した資料の収集・整理の遅れによって生じたものであり、資料収集など研究遂行に必要な経費として平成25年度請求額と合わせて使用する。 平成25年度においては、未完了となっている投資条約仲裁事例の収集および整理を引き続き行う。整理した資料の分析とともに関連文献を収集して、論点を整理する。その整理した論点に合わせて、主に国際法上の紛争解決手続におけるスタンディングの一般的理論についての資料・文献についても収集も継続する。これらの資料の購入費、収集のための旅費等を研究費から計上する。また、ファイルなど資料の整理のための事務用品、データベース関連ソフトおよび外付けHDDなども購入する予定である。 並行して国際法上のスタンディングの問題、とりわけ会社の外交的保護における「会社の国籍国」による請求と「株主の国籍国」による請求の関係についての法理論について、先例、先行研究など従来の理論枠組を再検討する。随時、必要となった資料の購入、複写などに研究費を使用する。 また、研究の遂行状況についての意見を求める必要性から、前所属研究機関である東北大学への訪問のほか、外部で開催される本研究課題に関連する研究会に参加し、助言を受けるとともに意見交換を行う予定である。このための旅費も研究費から支出する。
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