最終年度においては、関連する投資条約仲裁事例の収集および整理を引き続き行った。事例の数が継続的に増加しており当初の見込みより多数となっているため、仲裁事例の分析整理は未完了であるが、一定程度の事例について整理が進めることができた。事例は、1. 請求主体、2. 根拠となる投資条約の関連規定、3. 請求内容・請求文言という3つの観点からの整理を進めている。また、事例に関連する二次文献(評釈等)についても継続的に収集している。これらの資料をもとに、典型的な事例の分析による論点を整理を進めている。 会社という形態をとる投資家に関連する問題については、これまでの研究成果に本研究課題による成果を加えて、学術論文「投資条約仲裁手続の人的管轄権の判断基準としての『会社の国籍』(1)(2・完)」を『法学』(東北大学)誌上に発表した。 投資条約仲裁事例の整理および分析と並行して、国際法上の一般的理論との関係から外交的保護手続における「請求国」「原告適格」の問題を扱う国内および国外の資料・文献について検討を進めている。まずは、投資条約仲裁手続における出資元の本部会社および中間会社と現地子会社の関係について、会社の外交的保護手続における会社の国籍国と株主の国籍国の関係についての法理論との比較から理論的検討を行い、その研究成果を学術論文としてまとめる予定である。これにより、現状では必ずしも明確なものとなっていない両手続の国際法上の関係や位置づけについて一つの視座を与えることができると考える。 このほかに、関連研究会などに参加して、本研究課題について、参加者から助言を受けるとともに意見交換を行うことで、研究内容の向上に努めた。
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