本研究は、「障害学」(Disability Studies)の視点を踏まえて、障害者権利条約等を手がかりとしながら、国内外の学説と判例を深く研究することにより、国際人権法における合理的配慮の機能と限界を明らかにすることを目的とするものである。本研究を効果的に進めるためのカギとなるアイディアは、国際人権法の考察の中に「障害学」の知見を積極的に採り入れることである。 このような本研究の目的と計画に照らし、平成24年度は、たとえば次のような研究を実施した。まず、2012年10月に、長瀬修・東俊裕・川島聡編著『増補改訂:障害者の権利条約と日本―概要と展望』(生活書院)を刊行した。また、2012年10月に、「中津川代読拒否事件1審と国際人権法・コメント」『国際人権』23号91-94頁を執筆して、合理的配慮の概念を検討した。そして2013年3月に、川島聡・西倉実季「容貌の損傷と合理的配慮-ADAの障害学的検討」『海外社会保障研究』182号53-62頁を執筆した。 さらに、2012年9月に、ランカスター大学(イギリス)で開催された障害学の国際会議で、"What can Japan learn from the UK Equality Act 2010?"と題する報告を行った。この報告では、2010年英国平等法の差別概念(合理的配慮を含む)を検討した。 以上のような研究成果は、「障害学」の理論的発展にも資するものであるが、その理論的発展から得られた知見を国際人権法(特に障害者権利条約)の文脈に代入することで、従来の国際人権法学には見られない新しい学際的方法を発展させたものと考えることができる。このことは、もちろん本研究の目的に資する学問的成果である。
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