研究課題/領域番号 |
23730044
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
伊藤 一頼 静岡県立大学, 国際関係学部, 講師 (00405143)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 国際経済法 / 国際通商法 / 国際投資法 / WTO / 仲裁 / 立憲化 |
研究概要 |
本研究は、今日の国際経済法が直面する統合性と分権性の緊張関係に着目し、これを「立憲化」という視点から理論的・実証的に分析しようとするものである。特に、従来の研究が「立憲化」の尺度をもっぱら規律強化や司法化の進展に求めていたのに対し、本研究は、統合性と分権性のバランスが適切かどうかという観点から立憲化概念じたいを再構成しようとする点に特色がある。 まず、立憲化概念の多様な含意を把握するため、関連する政治思想や法制度の系譜を追跡し、特に近代立憲主義の史的位相を明らかにすることをめざす。この点に関して、本年度は、中世における立憲性概念の研究などを通じて、立憲主義が近代主権国家構造を必然的に前提とするわけではないことを明らかにし、国際法秩序における立憲主義を議論するための理論的な基盤を得られた。 次に、実証面から立憲化概念の意義を明らかにするため、国際経済法分野の諸制度を素材として、規律の統合性と分権性の要素がいかなる形で処理されているかを分析した。まず通商法に関して、本年度は、GATT/WTOにおいて実体規律と紛争処理の両面で統合化が進展してきた経緯を史的研究により跡付け、国際組織が権威を増大させて各国の主権的権能との間で緊張を生み出しつつある状況を明らかにした。また投資法に関しては、二国間投資条約の急増と仲裁判断の集積によって規律の客観化が進行したきた経緯を包括的に分析し、同時に、最近の投資条約が様々な方法で主観性の回復を試みている事例を分析することで、ここでも統合性と分権性の緊張関係が生じていることを明らかにした。 これらの成果を通じて、国際経済法の規範構造が、統合性の増大と、それを契機とした分権性回復の試みとの間で動態的に変化しつつある状況を総体として把握することができ、立憲化概念による分析枠組みの構築に向けた準備が整ったといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、立憲性概念の理論史的系譜、国際通商法の立憲化、国際投資法の立憲化という3つの柱にしたがって、国際経済法の立憲化に関する分析枠組みの構築をめざしている。 このうち、立憲性概念の系譜については、初年度は特に欧州中世における立憲性概念の検討を進め、近代立憲主義との比較において立憲性の本質を導き出すための手がかりを得ることができた。また、国際通商法の立憲化については、まず規律の統合性の側面につき、初年度は特に紛争解決制度を通じた司法的法発展の経緯を入念に検討することができ、国際規範の自律性の程度を実証的に明らかにできた。一方、規律の分権性の面については、初年度は特に地域主義に焦点を当て、国際規律の統合性との間で緊張関係が高まっている状態を把握することができた。次に、国際投資法の立憲化については、統合性の側面につき、特に仲裁を通じて原則規定の意味内容が補充されていく過程を、投資条約の代表的な諸条項について整理することで、投資法秩序の一体性が高まっている状況を把握した。一方、分権性の側面については、近年見られる投資条約の条文精緻化の動向を、各国の条約実務に即して調査し、仲裁の法解釈による規律統合化の傾向との間でいかなる緊張関係を生んでいるのかを考察した。 総じて、3年間の研究計画としては、初年度において全体の方向性を見定めることができ、今後の研究でより詳細な検討が必要な部分を特定することができたという意味で、概ね所期の研究成果が得られているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に引き続き、立憲性概念の理論史的系譜、国際通商法の立憲化、国際投資法の立憲化という本研究の3つの柱について、それぞれ調査・考察を深める予定である。 立憲性概念の系譜については、古代から中世にかけての立憲性概念の用いられ方をより詳細に跡付けるとともに、現代における「多元的立憲主義」の理論に関しても研究を開始し、それが国際法秩序における立憲化論にいかなるインパクトを与えうるかを考察する。 国際通商法の立憲化については、特に分権性の拡大の側面について、非貿易的関心事項、および発展途上国の開発の観点から、個別国家の主観的政策が国際通商体制においていかなる位置づけを占めるのかに関して考察を行う。 国際投資法の立憲化については、初年度に引き続き、投資条約における抽象的な原則規定の意味内容が仲裁の法解釈を通じて具体化されていく過程について、より広範に事例を収集して実証性を高めたい。また、分権性の側面については、各国が条約文言の精緻化や例外条項の活用により仲裁の法解釈に対するコントロールを強めようとする動向について、その実効性の有無を含めて詳細に検討を行う。 また、本研究の第4の柱である、他分野の条約構造との比較対照に関しては、特に人権法・環境法の分野に焦点を当て、国際経済法における条約構造、およびそれに依拠した立憲性概念との類似点と相違点を検証する。これはもっぱら最終年度に予定している作業であるが、2年目においても予備的な研究に着手することをめざしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度の研究費に関しては、次年度繰り越し分が発生した。これは、当面手元の文献資料等で研究を進めることができ、図書購入費、および調査研究旅費等が当初見込みよりも少なく済んだためである。次年度(2年目)に関しては、すでに手元の文献資料等は検討を終えているため、新規の図書購入費が比較的多額に必要となる。また、理論史的研究を進めるために各大学の所蔵資料を収集したり、また国内外の条約実務等を実地に調査するために、調査研究旅費が必要となる。さらに、記憶媒体等の電子機器および資料印刷代として消耗品費の支出も必要となる。これらを合わせると、初年度からの繰り越し分も含め、2年目の研究費配分予算額を予定通り使用できる見込みである。
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