研究課題/領域番号 |
23730044
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
伊藤 一頼 静岡県立大学, 国際関係学部, 講師 (00405143)
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キーワード | 国際経済法 / 国際通商法 / 国際投資法 / WTO / 仲裁 / 立憲化 |
研究概要 |
本年度は、昨年度の研究成果を基礎としながら、立憲性概念の理論史的系譜、国際通商法の立憲化、国際投資法の立憲化という本研究の3つの柱につき、それぞれ分析・考察を深めた。 まず立憲性概念の理論史的探求として、特に英国における「古代の国制」論に注目しながら、立憲性に含まれる理念が必ずしも近代立憲主義に還元されないことを明らかにした。つまり、立憲性の本質は、国家権力の抑制に限らず、より広く、恣意的な統治権に対する法の制約・枠づけに求められる。このように捉えることで、国際組織による専断的な決定などに対しても立憲主義による制約を論じることが可能となり、国際法秩序における権力集中の抑制原理として立憲化概念を理論的に定位できたと考える。 次に、国際通商法における立憲化に関しては、本年度は特に発展途上国に関する通商規律が個別分散化している近年の現象に注目し、そこに見られる、先進国の政策的裁量とWTOによるコントロールとの相克を分析するなかから、立憲化概念の理論構築に寄与する知見を獲得できたと考える。 国際投資法における立憲化については、近年の投資仲裁判断でしばしば用いられている比例性原則に着目した分析を行った。つまり、投資受入国の規制により得られる公益が、それにより外国投資家が被る損害に比して均衡を失していなければ、当該規制は投資協定違反を構成しない、との判断枠組みが次第に発達しつつある。この意味での比例性原則は、国内の憲法訴訟などでも見られる、利益・権利間の調整を行うための分析手法であり、これが投資仲裁において受入国の公益規制権限と投資家の財産権との調整原理として用いられている点に、立憲化概念の精緻化に資する重要な論理が含まれていると観察した。 以上のように、本年度は昨年度の基礎研究をもとに、応用的な論点も含めて幅広く分析を行い、立憲化概念の体系的理論化に向けて着実な前進が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の3つの柱のうち、まず立憲化の理論史的側面については、近代立憲主義が発達する以前の憲法概念について本年度はまとまった考察を進めることができた。立憲性概念を広い歴史的視野から捉え直すことで国際法秩序における立憲化論に新たな視点を導入するという本研究の目的は、着実に実現されつつあると言える。また、国際通商法における立憲化を体系的に論じるうえで必須の論点であった発展途上国の位置づけに関しても、本年度は踏み込んだ調査・分析を進めることができ、立憲化論を構築するうえで重要となる理論的知見も得られたため、この点でもおおむね満足できる成果が得られたと言える。最後に、国際投資法における立憲化論については、投資仲裁が用いている比例性原則の意義を分析するために、憲法学や国際人権法学における同原則の位置づけを検討することとなったため、本研究の一つの目標である他分野の論理構造との比較という作業に着手した形となり、立憲化概念のより総合的な理解・整理に向けて研究を前進させることができたと言える。以上のように、本年度は、交付申請書に記載した研究の目的にほぼ沿った成果を得ることができたと考えられ、研究はおおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は本研究の最終年度となるため、これまでの研究成果の整理に着手し、理論面での考察と実証的分析とを融合させることで、国際経済法における立憲化概念の体系的な理解を提示することを目指す。立憲化概念の理論史的考察、及び国際通商法・国際投資法における立憲化論の検討という主要な研究項目に関しては、これまで踏み込んだ研究ができていなかった点(特に通商法秩序における地域主義の位置づけと、投資法における「非投資的関心事項」の問題)を中心に、研究の実証的完成度を高めるべく取組みを進める。また、国際経済法以外の分野における立憲化概念との比較研究という課題に関しても、本年度すでに検討に着手した国際人権法との関係などに引き続き注目し、比例性原則や条約解釈手法などの具体的な素材に基づきながら、立憲化概念の充実化に資する示唆を引き出すこととする。最終的に、国際経済法における統合性と分権性の緊張関係を的確に把握し、その意義を理解するための総合的な分析枠組みとして立憲化概念を定式化することができれば、本研究の所期の目的は達成されることになる。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は、昨年度からの繰り越し分を含め、特に文献資料の購入費を中心におおむね計画通りに研究費を使用した。なお、本年度も次年度に繰り越しとなる研究費が発生したが、次年度は本研究の最終年度でもあり、研究成果のとりまとめに当たって、不足する文献資料の購入費や、関係諸機関における調査を進めるための研究旅費等が必要となるため、繰り越し分も含めて当初計画した研究経費を全て執行することができる見込みである。
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