今年度は、本研究の最終年度となるため、これまでの研究成果の整理を進め、理論面での考察と実証的分析とを融合させることで、国際経済法における立憲化概念の体系的な理解を提示することを目指した。 まず理論面では、立憲主義の本質を「公権力行使への抑制」と捉えることで、それが国家権力のみならず、国際的な行政・司法機関の活動に対しても適用可能な概念であることを論証し、国際法学において立憲化概念を導入・議論することの意義を明らかにした。こうした脱国家的な立憲性概念に依拠することで、法制度化が進む国際関係において、国際法学が適切な権力抑制のために備えるべき視点を提示しえたと考える。 国際通商法の実証的分析では、特に地域主義の問題に焦点をあて、多数国間レベルと地域レベルの関係を、権限行使の相互抑制という観点から意義づけ、これを立憲化論の構成要素として取り込むことを試みた。特に、WTOと自由貿易協定の相互関係に着目し、各種の具体的ルールが立憲化の観点からいかに解釈されるべきかを分析した。 国際投資法の実証的分析では、投資保護協定における例外条項など、国家の規制権限の確保を図る仕組みの実例を検討し、その効果や解釈上の問題点を考察した。これにより、投資家保護と国家の公益規制との調整を立憲化の観点から把握する基盤を得ることができた。 以上の通り、本年度の研究では、立憲性概念の理論的・思想史的な意義を整理するとともに、実証面では、国際経済法における規律の統合化と、その反作用としての分権性の契機の表出とを追跡し、かかる緊張関係から生じる権力抑制の契機を立憲化という概念により意味づけていく作業を行った。これに基づく研究成果も数点公表することができ、概ね本年度の研究目的を達成できたといえる。
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