「研究目的」では本来前年度に公表する予定であった立作太郎著作目録のうち、まず最も完成度が高い満州事変関連部分を切り離してインターネット上の個人用HPで先行して公開し、次いで全著作目録の暫定版も同じサイトで公表した。当初計画では、所属研究機関の機関誌に全著作目録を投稿する予定だったが、申請者の調査が及んでいない立の著作がまだ相当数存在している可能性があることが昨年夏頃に判明し、今後も著作目録の継続的改訂が必要と判断されたため、上記の措置をとった。 文献調査と並行して進めてきた立作太郎の国際法論についての研究は、前年度研究実績(「今後の研究の推進方策」)に記した通り、今年度は満州事変への立の学問的応答のあり方に絞って実施した。その結果、具体的に以下の成果を得た。(1)従来、満州事変への日本の国際法学者の応答を分析するに際して、日本軍の軍事行動を自衛権概念等によって正当化したか否かという点ばかりが重視されてきたが、これは適切でないとの確信を得た。満州事変が重大事件と認識されるに至ったのは、日本軍の軍事行動それ自体のためではなく、その政治的帰結が「満洲国」承認によって固定化され、またその延長上で国際連盟脱退という「外交的クーデタ」が実施されたことに起因しているからである。(2)今年度の調査により新たに発見された史料から、立は「満洲国」承認を国際法違反であると理解していたこと、また「満洲国」承認に代わるべき別の路線を模索していたこと、が判明した。以上の成果に基づき、「立作太郎の平和構想:満州国承認問題と宗主権論」を執筆し、『平和研究41号』掲載論文として投稿した。 以上に加えて、(3)従来の一般的理解に反して、立は古典的自衛権概念による満州事変の正当化に消極的であったこと、(4)国際連盟脱退論にも最後まで批判的であり続け、脱退回避のために言論活動を継続していたこと、を発見した。
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