研究課題/領域番号 |
23730049
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研究機関 | 九州国際大学 |
研究代表者 |
竹村 仁美 九州国際大学, 法学部, 准教授 (10509904)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 国際刑事法 / 国際刑事司法 / 正統性 / 正当性 / 国際刑事裁判所 / カンボジア特別法廷 |
研究概要 |
国際刑事司法の正統性の問題について、本年度は、2011年1月末から2月にかけて訪問したカンボジア特別法廷の正統性評価を中心に研究・発表活動を行った。カンボジア特別法廷は、国際社会が刑事手続を司る純粋な国際刑事司法と異なり、カンボジアの国内刑事司法に国際社会が協力しながら過去の大規模人権侵害に対処する、という形態をとり、国内刑事司法に位置づけられる司法機関である。しかしながら、国際社会がその設置を支援し、また、国際社会がその運営に少なからず貢献している点で、カンボジア特別法廷は国際刑事法学において混合法廷と呼ばれる形態の司法機関であり、今日、国際刑事司法の一翼を担う裁判所の形式のひとつである。国際刑事司法の正統性構築という視点からも、今後の国際刑事司法の在り方をうらなう上でも、混合法廷の評価は非常に重要であると考え、この課題に取り組んだ。 口頭発表として、九州法学会第116回学術大会(宮崎産業経営大学)において2011年6月26日に「カンボジア特別法廷の抱える課題――国際刑事司法の正統性構築の視点から――」という題目で報告を行った。この口頭報告に関する論説として、九州国際大学法学論集第18巻第3号(2012年3月)に、「カンボジア特別法廷の現状と課題――国際刑事司法の正統性構築の視点から――」を掲載した。カンボジア特別法廷の正統性評価、考察を通じて、国際刑事司法全般に関する正統性の指標の考察の手掛かりを得た。 平成23年度下半期以降は、視野を広げて、国際刑事裁判所、旧ユーゴ国際刑事法廷、レバノン特別法廷の正統性評価を行うべく、2012年2月末、オランダ・ハーグにこれらの国際刑事司法機関を訪ねた。なお、科学研究費の助成を受けた研究成果を広く社会に還元するため、平成23年9月、研究成果に関する個人のホームページを開設した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の不十分な点として、主に以下の二点が挙げられる。第一に、一番最初に検討すべきであった国際法の正当性と国際法の正統性という二つの語法の問題について、日本語の先行研究についても、英語の先行研究についても、語法を明らかにするための十分な文献収集、読み込みが行えておらず、いまだ研究が不十分な状況にある。第二に、国際刑事司法における正統性構築という課題について、今年度はカンボジア特別法廷と国際刑事裁判所を中心に研究を進めたため、旧ユーゴ国際刑事法廷、ルワンダ国際刑事法廷について、その正統性評価を行うことができなかった。国際刑事司法の正当性、民主的正統性について、包括的に研究するという当初の目的の達成のために、今後、研究対象の視点が狭くならないよう留意したい。 しかしながら、研究の進度については、国際刑事司法の正統性の指標について、この一年間で基礎的な研究を終えたといえる。まず、国際法における正統性評価が規範的正統性と実質的正統性の二つを主な視座としているという点を明らかにした上で、それぞれの正統性評価の特徴的な指標を示し、その指標を国際刑事機関に照らして評価していくという正統性評価を行った。その指標を当てはめた正統性の評価について、少なくともカンボジア特別法廷について遂行することができたので、当初の研究目的に対する達成度について、おおむね順調であると自己分析している。また、国際刑事裁判所の正統性評価についても、若干ながら、カンボジア特別法廷と対比しながら、検討を加える作業を行った。常設の国際刑事裁判所は、国際刑事司法の正統性を評価する上で特に重要な作業であると考える。今後の研究の進度及び深度に応じて、一層正統性評価を精緻化していくことが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、第一に、本研究課題ないしはそこから派生する課題について単著を書くという長期的目標を持ちつつ、国際刑事司法の正統性構築という大きな課題に今後も計画的に取り組んでいきたい。第二に、国際刑事司法も多用な形態をとりつつある。平成23年度は主に混合法廷と呼ばれる法廷に着目して正統性評価を行った。今後は、常設の国際刑事裁判所その他の種類の国際刑事法廷の民主的正統性・正当性を高めるにはどうすべきか、比較も交えながらの検討を他の国際刑事司法機関について行うことが必要となる。第三に、広く国際刑事司法の実効性と信頼性を担保するにはどうすべきかという課題について、一つ一つの国際刑事司法機関の正統性構築と並行して、国際刑事司法の正統性構築の問題をどのように捉えるのか、明らかにしていきたい。第四に、そもそもの問題として、国際法学上及び法学上、正当性と正統性の用語の使い分けはどのようになされているのか、について明らかにする必要がある。 実証的研究の今後の課題として、実際に活動が終局しようとしている旧ユーゴ国際刑事法廷及びルワンダ国際刑事法廷の実行の評価を正統性・正当性の評価の視点から包括的に行う必要がある。そして、シエラレオネ特別法廷についても、平成24年4月に元リベリア大統領チャールズ・テイラー被告人に第一審が有罪判決を下すなど、一定の実行の集積が見られるので、聞き取り調査を行い、法廷の民主的正統性・正当性を検討する必要がある。この他、シエラレオネ特別法廷、カンボジア特別法廷と同じく混合法廷の性質を有するレバノン特別法廷について、平成23年度に同法廷を見学することがかない、その基礎的知識を得た。そこで、この法廷についてひとまず基礎的研究を十分に行い、今後の同法廷の実行・不実行について正統性・正当性にもとづく評価を行っていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費の主要な用途として、引き続き、国際法及び国際刑事法の関連の文献を収集する費用を一定程度確保し、さらに、次年度も国内外において研究発表を予定しているので、そのために出張旅費を計上したいと考えている。また、できれば、オランダ・ハーグに位置する国際刑事裁判所や旧ユーゴ国際刑事法廷以外の国際刑事司法機関についても正統性評価を行うための旅費も計上したい。その他、正統性評価のための現地調査における聞き取り調査上発生する謝金も研究計画通りに使用を計画している。
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