研究概要 |
平成24年度は、アメリカ合衆国における競争規制の成立に、オリバー・ウェンデル・ホームズ・Jr.の思想がどのように寄与したかを探求するという研究目的の下、Morton J Horwitz, "The Transformation of American Law 1870-1960" (Oxford University Press, 1992) 第4章 'The Place of Justice Holmes in American Legal Thought' の先行研究を主な手がかりとして、Oliver Wendell Holmes, Jr., "The Common Law" (1881) とりわけ第6講 'Possession' を精読した。具体的には、私的取引に対する規制に極めて謙抑的な態度をとる自然権的思考が隆盛していた19世紀後半において、ホームズがどのように思想的転回を図ったかを探求した。精読の結果、ホームズが次の点から競争規制の基礎、すなわち政府が私的領域を規制することを可能とする理論的基盤を提供したことを確認した。第一に、占有の説明に行き詰まるところから、意思の自由を出発点として私有財産を正当化する自然権的思考に限界があることを示した点、第二に、自然権的思考の下では権利から発想するのが当然であった枠組みを根底から覆し、法的権利の前に義務がくるベキことを主張し、さらには権利と義務の間の相関関係をも切断した点、第三に、権利義務は法以前に存在せず政策に基づいてこそ法ルールが形成されることを示して、一定の政策に基づいて政府が私的取引を規制する理論的可能性に道を開いた点。 本年度の検討から、競争規制の成立に対するホームズの思想的寄与の一端を示すことができたが、判例に表れたホームズの意見に照らしつつ、さらにその全体像を示すところまでは、本年度には到達できなかった。
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