研究課題/領域番号 |
23730051
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
池田 悠 北海道大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (00456097)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 社会法学 / 労働 / 倒産 / 労使関係 / 再建 |
研究概要 |
本研究は、再建型倒産手続において労働者の取扱いが極めて重要な位置づけを占めるにもかかわらず、これまで再建型倒産手続の特殊性に着目した労働法研究が十分になされていない現状に鑑み、比較法的考察の手法を用いながら、再建型倒産手続における労働者の取扱いを分析するものである。そこで、研究初年度である今年度は、研究実施計画に沿って、日本法の現状分析および比較法研究の足がかりとなる準備的作業を行った。第一に、日本において、再建型倒産手続の特殊性に着目した本格的な学術研究が行われていないため、日本における再建型倒産手続および労働法規範の構造を、沿革的な見地を踏まえながら研究した。その上で、研究課題にかかる日本の現状を分析したことで、比較法的考察に向けての分析軸を獲得することができた。そして、日本法については、適宜研究成果の公表を行った。第二に、次年度以降に予定している比較法的考察のうち、とりわけ入念な考察を要するアメリカ法について、今年度にも一部前倒しして調査研究を開始する予定であったところ、予定通り研究を開始することができ、一部を成果として公表することができた。具体的には、アメリカにおける再建型倒産手続および労働法規範の構造をそれぞれ分析し、日本との比較法的考察を行うための前提条件を整えた。また、再建型倒産手続における労働法の適用関係を、判例・学説や立法に照らして考察することで、再建型倒産手続の再建目的と労働法の労働者保護目的との緊張関係をめぐるアメリカ法の分析を、一定程度進めることができた。これらは、日本法・アメリカ法を問わず、これまでに研究されたことのない領域を取り扱う研究であり、一部の成果を公表したことで、今後の学術研究に当たって有意義な基礎的考察を提供できたものと思われる。実際にも、学説はもちろん、実務からも高い関心を呼んでおり、今後の研究のさらなる進展が期待されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、比較法的見地を踏まえながら、わが国の再建型倒産手続における労働法の規範構造を分析し、解釈論・立法論両面から、課題の析出及び解決に向けた試論を提示することを目的としている。研究初年度である今年度は、日本法の現状分析および比較法研究の準備的考察を行うことで、来年度の本格的な比較法研究に向けた足がかりとする予定であったところ、当初予定していた一次資料の収集などの調査方法について、必ずしも十分に行うことができなかった側面も否定しがたい。しかしながら、結果として、それに伴う研究の遅れは最小限度にとどまり、研究実施計画に基づいて予定されていた今年度の研究計画は、ほぼ達成することができたと考えられる。すなわち、問題状況を把握するために日本法の現状を分析することはほぼ完了し、次年度の比較法研究で最も重要なアメリカ法の準備的考察も行うことができた。そのため、次年度は、日本法で把握した問題状況に照らして比較法研究を行うという当初の計画を、予定通り実施することができる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本研究の研究目的を達成するために、再建型倒産手続における労働法の規範構造の本格的な比較法研究に入る予定である。特に、比較対象として最も重要なアメリカ法の分析を掘り下げて行うことで、最終年度の取りまとめに向けた分析の視座が提供されるものと見込んでいる。その上で、比較法研究を通じて獲得した分析の視座に従って、問題状況の把握に向けた現状分析にとどまっている日本法について、清算や事業譲渡の場面も含めてより立ち入った考察を行うことで、最終的には研究成果を公表し、研究・実務両面における議論の成熟に寄与することを目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度の研究費に関して、次年度使用額が生じたのは、大きく以下の三点のやむを得ない理由に基づく。第一は、東日本大震災の影響による採択の遅れに、研究代表者の所属研究機関の変更が重なったことで、今年度4月から、必ずしも円滑に研究を開始することができなかったと言える。第二は、東日本大震災の影響で、交付額が当面採択額の7割にとどめられたことで、年度前期において、研究計画通りの予算執行に不透明感が生じていた。第三は、昨年末になって、研究代表者が、研究分担者として携わる別個の研究事業(今年度当初は不採択)につき、突如として追加採択がなされたため、当該追加採択にかかる研究事業について、今年度の研究計画を急遽遂行する必要に迫られたことが挙げられる。もっとも、今年度の研究実施計画自体は、時間的・経済的なコストのかかりにくい研究手法を代替手段として活用することで最小限の遅れにとどめ、概ね順調に進めることができた。しかし、以上の大きく三点にわたる影響を受けたため、今年度には、予定していた一次資料の収集など、時間的・経済的な両面で、とりわけコストのかかる作業を十分に実施することができなかったものである。しかしながら、次年度については、以上のような不確定要素が生じる可能性はほぼ皆無であるため、今年度に必ずしも十分に実施できなかった一次資料の収集はもちろん、十分な時間的・経済的なコストをかけて研究課題に取り組むことができる見込みである。そこで、次年度は、次年度使用額も含めて研究費を活用することで、比較法研究を一層掘り下げて進めるほか、日本法に関しても必要に応じて、今年度に実施できなかった一次資料の収集などを補完的に行う予定である。
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