研究課題/領域番号 |
23730053
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
富永 晃一 信州大学, 経済学部, 准教授 (30436498)
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キーワード | 差別禁止 / 平等取扱い / 過去の差別 |
研究概要 |
本研究は、過去に適法とされていた差別が、その差別が禁止された現在になって、被差別者に不利益な影響をもたらすという場合(『過去の差別の現在の効果』)に生じる法的紛争やその処理方法について、日本法と諸外国との比較を中心に立法・判例・学説の調査・研究を行い、当該問題に対する望ましい解釈論及び立法論を探求することを目的としており、具体的な目標としては、日本法、アメリカ法・ドイツ法を題材に、①各法制の差別禁止法制の概要(差別禁止事由、差別類型、差別が正当化される場合等)、②差別禁止法施行時の経過措置・差別行為への出訴期間等の規定内容、③差別禁止法施行前の差別が施行後に影響する場合の法的処理(過去の差別の是正措置等)、④差別禁止法の施行時点での使用者の差別是正義務のあり方等について、立法・判例・学説を調査し、各法制の処理の特徴とその背景、各法制のメリット・デメリットを明らかにし、日本の社会や法制度・差別禁止法制の特徴、日本が直面している問題状況に照らして、有効な示唆を与え得る立法政策論・解釈論を示すことを目標としている。 平成24年度には、主としてドイツ法の文献調査を行い、前年度にデータベースにより文献の所在等を確認したものに基づき、データベースから収集できる文献等及び書籍の形で刊行されている解説書・コンメンタール等を中心に収集した。また、アメリカ法については、データベース化されていないものを中心に収集する予定であり、また新しい差別禁止の手法の実施としていわゆるアファーマティブ・アクションに関する文献等を購読したところであるが、さらに2009年のLedbetter事件判決に対する学説の反応(論文)が新たに出されているため、これをも収集した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」に記入のとおり、平成24年度には、所定のドイツ法・アメリカ法の文献調査・収集を行った。ドイツ法・アメリカ法についても、これで完全ではなく、また新たな法的状態の変動(新たな下級審判決や論文等)があるため、継続調査の必要があるものの、以下のとおり、おおむね当初の予定に沿った文献収集を行った。 まず、ドイツ法についてはおおむね当初の予定に沿った文献収集を行うことができた。ただし、本研究の目的が差別禁止法の施行時の使用者・社会の対応の在り方を探求するものであるところ、2006年の一般平等取扱法の制定・施行により、新たな差別類型として、セクシュアル・ハラスメント、人種等を理由とするハラスメント、差別の指示等が禁止されたところであるが、これらの禁止の実態については、まだ一般平等取扱法の施行から年数を経過していないこともあり、裁判等で問題化した事例も少ないため、なお補足調査の必要性がある。 次に、アメリカ法については、前年度を補足する形で、データベース化されていない文献等を収集し、特に新しい差別禁止の手法の事例としていわゆるアファーマティブ・アクション(ポジティブ・アクション)に関する文献等に加えて、それ以外に、2009年のLedbetter事件判決と同判決に対する立法的対応であるLily Ledbetter Fair Pay Act(LLFPA)に対する学説の論文を収集した。これらの判決・立法の影響についてはまだ未知数のところが多く、下級審の裁判例も漸くデータベース等に登載されはじめたばかりであるため、同法施行後の裁判例についてはなお継続調査の必要性が高い。
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今後の研究の推進方策 |
「研究実績の概要」及び「現在までの達成度」に記入のとおり、平成24年度には、所定のドイツ法・アメリカ法の文献調査・収集を行い、ドイツ法・アメリカ法について、おおむね当初の目的に沿って研究を進めている。ただし、新たな法的状態の変動(新たな下級審判決や論文等)があるため、継続調査の必要があり、当初の予定のとおりドイツ法について補足調査を行うとともに、アメリカ法・ドイツ法のいずれについても、最近の立法(ドイツ:2006年一般平等取扱法、アメリカ:2009年Lily Ledbetter Fair Pay Act(LLFPA))の施行後の裁判例や学説の調査を行うとともに、いわゆるアファーマティブ・アクション(ポジティブ・アクション)や間接差別禁止法理等の新しい差別禁止法理の施行に伴う裁判例・学説の状況についても、平成25年度で補足調査を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度には所属大学でドイツ法・アメリカ法のデータベースを利用することができ、これに伴い研究計画の進展をみたとともに、当年度については、個人で判例・文献データベースを契約して資料を調査収集する費用が若干節減された。他方で、平成24年度の調査で、ドイツ・アメリカの近年の差別禁止立法の施行後の状況について調査の必要性が高いこと、また新しい差別禁止法理(前掲、間接差別禁止法理やドイツ法におけるハラスメント・差別の指示等)については裁判例・学説を調査する必要があることが明らかとなり、これらについては、アメリカ法でのアファーマティブ・アクション(ポジティブ・アクション)については資料収集の緒についたものの、それ以外については平成24年度では調査を開始するに至らなかった。この状況のもと、平成25年度に研究代表者がドイツ法の研究資料がほとんどない研究機関に所属を変更するため、特にドイツ法については、判例・文献データベースを個人で契約して利用するほか、文献を他機関から取り寄せ、また他機関に出張して収集しなければならないこととなっているため、次年度使用額を使用して研究を進める予定である。
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