研究課題/領域番号 |
23730056
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
池田 千鶴 神戸大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (40346276)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 競争法 / 企業結合 / イノベーション / 証拠・立証方法 |
研究概要 |
本研究は、イノベーションや研究開発が特に重要な市場における適切な競争政策・法の執行のあり方を企業結合規制(合併・買収による合併後のイノベーション・研究開発への取組みの低下等の悪影響を事前に防ぐ公正取引委員会による審査制度)に着目して研究する。 具体的には、イノベーションや研究開発が特に重要な市場における企業結合に対する競争法・独占禁止法上の評価・分析方法、競争回復措置の設計方法について、行政機関による審査の諸問題のみならず、裁判所における司法審査に耐えうる証拠・立証のあり方をも含め、アメリカ、EUにおける事例を参照しつつ、多角的、総合的に比較法研究するものである。 本年度は、2001年に米国・連邦取引委員会(FTC)が審査手続を打ち切り、不問に付した製薬企業同士の株式取得であるGenzyme/Novazyme事件を中心に検討した。本件では、難病の治療薬がまだ市場化されておらず、また2社しか研究開発を進めていない状況の中で、当該2社が結合することによるイノベーション競争・研究開発競争の遅延・低下が反競争効果として問題となる一方で、本件株式取得により未だ治療法が確立していない難病の治療薬の開発が成功する可能性が高まる等の効率性の向上効果が重視された。 イノベーション市場の画定の是非、製薬業界におけるイノベーション競争・研究開発競争への悪影響の捉え方、証拠・立証方法、効率性の向上効果の考慮の仕方等の点で、参考となる事例である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
米国の2010年水平合併ガイドラインに新しく盛り込まれたイノベーションに対する言及に関係する背景事情を把握するため、ガイドラインの改定作業での議論の経緯やこれまでの米国における議論状況を把握するための文献調査を行った。 また、イノベーション競争や研究開発競争の考慮が問題となった米国における企業結合事案の収集を行い、米国の競争当局による分析手法を解析するとともに、裁判所で争われた企業結合事案における証拠や立証方法にも注意を払いつつ分析している。 イノベーション競争や研究開発競争が問題となる企業結合事案に対する運用実態について、競争当局側と企業結合側の弁護士等へのヒアリングの実施については、諸事情により、次年度への持ち越すことになったが、この点についても鋭意準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、イノベーションそのものの理解と、イノベーションが競争に与える影響について理解を深める作業は、イノベーションに関する経済学・経営学等の他分野の研究業績や書籍・論文によって理解を深める一方で、実際にイノベーションの現場を実施調査したり、専門家の意見をヒアリングすることにより、平成23年度と同様に続けていく。 また、平成24年度は、EUや日本におけるイノベーション競争、研究開発競争が問題となる企業結合事例の収集と分析、議論状況の把握のための文献調査を行い、適宜、海外でのヒアリング調査・現地調査を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
イノベーション競争や研究開発競争が問題となる企業結合事案に対する運用実態について、競争当局側と企業結合側の弁護士等へのヒアリングの実施については、平成23年度の前半には研究代表者が留学中のため研究費の執行が予定どおりには進められなかった事情により、研究費の一部を次年度への持ち越すことになったが、この点についても本年度は鋭意準備を進めており、米国と欧州について、それぞれヒアリング調査を行う予定でいる。
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