最終年度では、2015年の電気通信事業法改正により、電気通信事業の登録の更新制度が設けられ、総務省による企業結合審査の仕組みが導入されたことを検討した(池田千鶴「電気通信分野における寡占化・グループ化・連携サービスへの対応と規律」日本経済法学会年報58巻55頁-72頁(2015年))。設備設置事業者のグループ化による更なる寡占化を防止し、設備設置事業者によるサービスの多様化・料金の低廉化の実現や、積極的な投資の維持・促進を図るため、設備設置事業者による競争の縮退を招くおそれの高いMNO間の合併や株式取得等、グループ化に係る資本取引が競争に与える影響について問題ないか否かを総務省が審査を行うことが可能となる。固定通信市場でも、新規事業者が線路敷設基盤(電柱・管路等)を新規に整備することが容易ではない等の特性に鑑み、グループ化の進展により設備設置事業者による競争の確保に支障を及ぼす懸念等を防止する必要があるのは移動通信市場と同様であることから、移動通信だけでなく、固定通信も新制度の対象となる。米国の連邦通信委員会(FCC)制度をモデルとしたものである。総務省による企業結合審査の仕組み(電気通信事業の登録の更新制度)の導入により、公正取引委員会が行う独占禁止法に基づく企業結合規制との二重規制の評価が問題となる。たしかに、企業結合がもたらす競争への影響を考慮する点では共通するが、独占禁止法1条と電気通信事業法1条のぞれぞれの目的や審査要件も異なる上に、総務省の新制度は設備競争の維持に関心がある一方で、公正取引委員会の企業結合審査では、商品・役務の市場を中心に市場支配力が形成、維持、強化される蓋然性を分析し着眼点も異なるため、不要な二重規制というわけではないように思われる。ただし、条件を付す場合には、相互に矛盾する内容とならないように、公正取引委員会と総務省との間で連携が取られることが望ましい。
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