研究課題/領域番号 |
23730057
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
細谷 越史 香川大学, 法務研究科, 准教授 (60368389)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 労働者の損害賠償責任 |
研究概要 |
本研究は、労働者が過失により企業に損害や不利益を与えるケース、労働者の勤務成績・労務給付が不良のケース、労働者が留学・研修後に短期間で退職するケースなどを対象として、日独の比較法の見地から、使用者のとりうるサンクション(制裁)の規制のあり方を包括的に検討・解明しようとするものである。 平成23年度においては、こうした労働関係におけるサンクションのうち、とくに労働者の損害賠償責任の制限法理に関する研究を発展させることができた。まず、ドイツ法では、金銭・物品の管理を行う比較的地位の高い労働者に対する責任制限法理の適用拡大の理論、労働者の責任を加重する合意の審査基準、労働者が重大な過失により重大な損害を引き起こした事例についての判例の責任判断のあり方などの、近年の重要論点を中心に検討を深め、これを整理することができた。 このようなドイツ法の整理・検討を参照しながら、日本における労働者の責任制限法理の特徴や課題、今後の展望を明らかにすべく、"Entwicklung und Aufgaben der Haftungsbeschraenkung des Arbeitnehmers in Japan", in: Zeitschrift fuer Japanisches Recht, 32号223頁~237頁を発表した。 また、これらの日独の比較法的検討をふまえて、最近の日本における労働者の損害賠償責任に関する重要判例について考察し、これを「郵便事業(特定郵便局局長)事件--福岡地裁平成20年2月26日判決--」、香川法学31巻3・4号51~62頁という形で公表することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、労働関係における様々なサンクションの規制のあり方を比較法的な視点から再検討し、その課題を明らかにし、それを克服しうる理論の方向性を提示するところにある。 平成23年度は、とくに労働者の損害賠償責任に重心を置いて、日本法とドイツ法を比較検討した。また、先述の公表論文などを通じて、ドイツ法の理論を整理・検討することにくわえて、とくに日本法の課題を明らかにし、今後の理論の方向性を指し示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、労働者の責任制限法理の研究をふまえて、本研究の研究対象を普通解雇、懲戒解雇、退職金の減額等に拡大する。くわえて、前年度における労働者の損害賠償責任に関する比較法研究を研究書として発表する予定である。 また、平成25年度は、前年度の普通解雇に関する研究を論文にまとめる形で公表する予定である。さらに、留学・研修費用の返還請求の効力についても検討を進め、ドイツ法の整理・分析をふまえて、日本法の課題を明らかにし、今後の理論の方向性を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額が一定程度生じたのは、年度末に注文した洋書が期日までに入荷しなかったことなどと関係している。 平成24年度は、損害賠償のみならず、解雇、懲戒処分、違約罰などに研究対象を拡大する。平成24年度の研究費は、次年度使用額を含めて、日本での資料収集や分析、研究会などの旅費に充てるだけでなく、ドイツでの資料収集や聞き取り調査などに重点的に配分することとなる。具体的には、小型ノートパソコン、ICレコーダー、旅費などが必要不可欠となる。
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