研究課題/領域番号 |
23730059
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
青柳 由香 東海大学, 法学部, 講師 (60548155)
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キーワード | EU |
研究概要 |
伝統的に経済活動としてはあまり認識されず国家が主たる役割を担うことがふさわしいと考えられてきた社会保障サービス分野が市場サービスにゆだねられるようになってきているため、これらの分野が独禁法の適用対象たりうるかのような様相を示している。しかし、この点にはいくつかの問題がある。すなわち、第1にこれら市場化したかにみられるすべてのサービスが独禁法の適用対象である「事業活動」に該当するか、第2に独禁法上問題とされうる行為にはどのような行為態様があるか、第3に独禁法に違反しうる行為についていかなる場合に正当化が認められるか、という点が不明だという問題である。これらの点について、日本においては事例がみられず、また先行研究もほとんど見られないといってよい状況にある。そこで、本研究は、事例の集積がみられ、これに関して活発な研究が行われているEUから示唆を受けることを目的として、欧州司法裁判所の判例および理論研究を検討するものである。 平成24年度においては、以下の研究を実施した。まず、平成23年度につづき、判例研究を実施した。特に、(1)独禁法の適用の是非、(2)行為についての独禁法上の評価、(3)正当化の是非について、各事例における事実関係およびEU競争法上の評価を整理した。特に、(1)について、問題とされる行為ないし加盟国内の制度の目的および性質等による個別具体的な判断がなされていることがわかった。とりわけ、類似の制度であるとしても、運用において市場メカニズムを利用しているか等の制度設計の違いによって経済活動該当性の是非が異なっている。独禁法の適用の是非においてほぼ同様の文言である「事業活動」の有無を判断基準としている日本に対する意義は大きいように思われる。 また、理論研究により、(3)の正当化を認める根拠について、背景となる思想や社会的慣行についての理解を進めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究においては、当初より3段階において研究を実施することを予定している。すなわち、第1段階において立法・裁判例の研究をし、第2段階において文献の検討wお通じた理論研究を実施し、そして第3段階において判例の理論的検討を行い、その内容を研究成果として研究会等で報告し、また論文として公表をする、という研究計画を立てている。 これまでの本研究の実施においては、平成23年には判例研究を中心に実施し、また本年度平成24年には判例研究を引き続き実施しつつも、欧州における先行研究の文献を積極的に収集しながら、これに基づき理論研究を行ってきた。くわえて、比較法的検討を行うための基礎的資料となる日本における社会保障制度等に関する文献も収集し、これを精読する作業を行ってきた。 以上の通り、本研究は当初の計画の通りに3段階のうち最初の2段階について初年度および2年度において実施することができた。また、研究内容についても、およそ想定していた傾向を見出すことができているといえる。したがって、研究の目的については、これまでのところおおむね順調に進展しているといえると考える。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である今年度においては、判例研究および理論研究において得られた知見について、これを統合して分析的な研究を実施し、研究成果を公表することを予定している。 まず、初年度および2年度目において検討した判例および理論研究について、これらにみられた論点および学説の分布状況を整理し、各論点ごとに判例および学説の立場を明らかにする。この判例および学説の整理に関してはいまだ資料が不足している部分および不明な点がある。そこで、不足している資料を収集し、また理解の確認および意見交換を実施するために、海外においてライブラリスタディを実施しまた本研究課題に関連して知見を有する研究者との面談を予定している。これにより、より広く資料を渉猟したうえでの検討が可能になり、また判例の位置づけや学説についての理解の適切さを実現することができると考えている。 以上のように実施する判例および学説の整理を行ったうえで、これに対して批判的な分析を加えることにより、本研究課題に対する結論を導くことを予定している。本研究課題の成果は、7月に開催される研究会において報告をし、国内においてEU法、EU域内市場法、およびEU社会政策等に広く知見を有する研究者からのコメントを受けることを予定している。これにより、複眼的な検討が可能になると考えている。最終的には研究成果は論文の形で、研究代表者が所属する機関が発行する紀要などに公表することを予定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究課題に関する次年度の研究費は、大きく分けて、第1に文献の購入、第2に海外調査に対して支出することを予定している。 まず、文献の購入については、本研究の初年度および第2年度においてすでに多くの資料を購入することができた。しかしながら、本研究分野は欧州においては現在非常に活発に研究がなされている分野であり、追加的に購入を要する文献がみられるところである。またくわえて、背景となるEU、EU法、EU域内市場、社会保障、競争法等に関する文献も活発に公刊されている現状であり、先行研究を十分に踏まえた検討に必要となる限りにおいて文献を収取する予定である。 また、日本において入手が困難な文献については、海外調査を実施することにより、欧州の大学や研究機関における図書館において複写を入手することを予定している。とりわけ、歴史的な資料が入手困難である。これらの入手については、マックスプランク研究所、欧州大学院大学(European University Institute)およびシエナ大学図書館などを利用して実現したいと考えている。 くわえて、近年における欧州の最先端の議論の状況について知見を有する研究者との意見交換を実施することを予定している。その目的は、ひとつには判例等の位置づけを確認することにあり、他方では、学説の対立状況の理解について確認をすることにある。しかしながらこれにくわえて、文献などにおいては記されがたい、加盟国ないしEUレベルの社会の実情との関連における学説の理解についてうかがうことも重要であり、インタビューを通じて、理解の進化を図り、また意見交換を行いたいと考えている。 なお、平成24年度末に予定していた出張がヒアリング先の都合により実施できなかったため、、平成24年度から平成25年度への繰越が生じた。
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