本年度は、ドイツにおける責任能力研究の第一人者であるヘルムート・フリスター教授の論考を受領し検討を行った。日本語訳として発表することを検討している。現在の日本においては、ドイツは意思自由論を前提にしているとの理解が流布しているものの、それは誤りであって、フリスター教授は意思自由論を否定し、経験的事実から人間の能力を考察することで責任能力を構成することを目指している。日本の実務からみても、意思自由を過程することにまったく意義はなく、人間が現に有する能力のうち、何が欠如すれば刑事責任の対象としてふさわしくないかという考察が不可欠である。このような見地からみると、フリスター教授が主張する、他人と価値観を共有し、コミュニケーションの際に、その価値観を判断ファクターに取り入れることができる能力を責任能力とみるという議論は極めて魅力的であって、現在の日本人にとって基礎知識として共有すべきものである。フリスター教授は多忙であるものの、日本に招待することを検討している。講演にはできるだけ実務家の参加もお願いしたいと考えている。 また、京都大学の安田拓人教授とも親交を深めて、責任能力研究の水準を上げるための準備を行っている。ドイツの通説的理解を前提にされる安田教授の議論は批判すべきものではあるものの、相互の対話を通じて、いかなる考えを今後の基盤にすべきかについて意識の共有を図ることがこれからの日本の刑法学に要請されている重要な作業であると認識している。
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