研究課題/領域番号 |
23730064
|
研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
伊藤 睦 三重大学, 人文学部, 准教授 (70362332)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | 証人審問権 / 伝聞法則 |
研究概要 |
本研究は、米国における議論と実態を踏まえながら、裁判員制度のもとでの専門家証人に対する尋問手続、及び広い意味での証拠開示手続のあり方と、鑑定書等の証拠能力について検討し直すことを目的としている。 今年度は、米国における専門家を用いた裁判と対質権、強制手続請求権、ノティス・アンド・デマンド法と伝聞規定及び証拠開示に関係する学説資料、判例資料を収集し、その分析・検討を行った。結果として、現在米国では、被害者供述等との関係では、対質権の例外を認める方向への揺り戻しが生じてきているのに対し、科学的証拠や専門家供述との関係では、血中アルコール濃度分析等に関してさえ、分析官の尋問の機会を保障することを原則とする厳格な姿勢が貫かれていること、そしてそれには、法科学の「科学性」を疑問視した米国科学アカデミーの報告書と、それを契機としたクライム・ラボ改革の動きが大きな影響を及ぼしていること等が明らかとなった。しかし他方で、連邦最高裁判例が現在激しく揺れ動いており、次年度以降も同じ分析が妥当するか否かも不明な状況であることも明らかになってきた。さしあたり現在まで分析したところに関しては、すでに論文としてまとめているので、次年度夏頃に刊行される予定であるが、来年度以降については、連邦最高裁の動向を引き続き注視しつつ、順次分析を行い、公表していくつもりである。 本研究では、聞き取り調査やアンケート調査も重視しているが、今年度は、米国の公設弁護事務所等での聞き取り調査と、裁判所での調査を実施したにとどまった。次年度は、クライム・ラボでの聞き取り調査や研究者、法曹実務家への聞き取り調査を実施し、また、日本の専門家と実務家に対しても聞き取りを実施して日米比較を行う予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
概要に示したとおり、今年度は、米国の判例および学説に関する文献収集と分析を中心として研究活動を実施した。他大学のデータベースを利用しながらの文献収集であったので、不都合も多々存在したが、テーマに関する資料はほぼ網羅的に収集し、読み解くことができたので、少なくとも理論的な面では、米国の現在の状況を正確に把握することはできたように思われる。 しかしながら、その研究成果を目に見える形で公表することができなかった。もっとも、概要にも示したとおり、今年度までの分析の結果については、すでに論文の執筆を終えており、また、研究会報告の形では公表もすませているが、年度内に紙媒体での公表を終えられなかったところは反省点である。 また、現在までの達成度が、おおむね順調というよりもやや遅れているに該当すると考えるもっとも大きなポイントは、専門家、研究者、実務家への聞き取り調査、アンケート調査が思うように進まなかったという点である。特に、今年度は、米国における公設弁護人に対する聞き取り調査などは実施できたが、日本の専門家や実務家に対する聞き取り調査が準備段階にとどまってしまった。震災の影響もあるが、準備そのものが当初の予定より遅れ、年度内の実施計画をたてることが不可能になったなどの基本的なミスもあったところを大いに反省し、研究の最終年度にあたる次年度には、遅れを取り戻して、当初の計画通りの調査を実施できるよう努力したい。
|
今後の研究の推進方策 |
裁判員制度のもとでの専門家証人に対する尋問手続、および広い意味での証拠開示手続きのあり方と鑑定書等の証拠能力について検討するという当初の計画と、米国連邦最高裁判例がこのテーマに関して一進一退を続けているという状況に鑑みて、引き続き関連する文献の幅広い収集と分析を実施する。その際、事故調査報告書や心理学鑑定など、今年度は検討の対象としていなかったテーマに関しても検討したい。 また、今年度実施できなかった、米国における専門家と法曹実務家、そして、同じテーマを研究対象とする米国の研究者に聞き折り調査を実施する。可能であれば、クライム・ラボやイノセント・プロジェクトについても現地調査を実施し、関係者から実態について聞き取り調査を行いたい。そして、日米比較という目的のために、日本での鑑定実務に詳しい研究者、専門家と、鑑定結果に疑いが生じた事例を扱う弁護士等にも聞き取り調査を実施したい。 さらに、可能であれば、専門家供述の示し方やデータの種類により、事実認定にどのような違いが生じるかという点についてもアンケート調査および心理学実験を行いたい。 そして、上記の結果と日米間の基本理念の相違を十分に踏まえ、最終的な提言を行うためには、現在の裁判員制度の実施状況についても正しく理解する必要があるので、その点についても文献的な検討と実務家、専門家への聞き取り調査を実施する。そして、研究の最終年度として、得られらた研究会の成果について研究会等での報告を行ったうえで、論文として公表するつもりである。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、文献収集も引き続き実施するが、米国に滞在する期間があり、その間は米国内の大学でデータベースを利用することができるため、資料収集にはそれほど研究費を使用せずに済むはずである。 しかし、上記のとおり、研究の最大の目的である、米国の専門家、実務家、研究者に対する調査と、日本の専門家、実務家への調査を実施しなければならない。米国での調査は米国滞在を利用して実施するため、旅費はほとんど必要としないはずであるが、10月以降に予定している国内での聞き取り調査は、特に、東北地方在住の実務家などもその対象に含まれているため、若干旅費を要する予定である。また、専門知識の提供を求めるための費用は、米国と日本のどちらの調査でもその都度必要となる予定である。さらに、アンケート調査や実験を実施する場合には、調査票の作成等にあたって心理学の専門家等にも協力を求める必要がでてくる。費用の関係上、調査の実施や調査票のとりまとめ、結果の分析等は独力で行わざるを得ないが、最低限度のものを人件費・謝金の中に見積もっている。 研究を分析するための機材やソフト等については、初年度にある程度そろえることができたため、今年度は最低限度のもので済む予定であるが、最終年度としての研究成果の報告のために、印刷費や雑費等が必要となる可能性があるため、物品費およびその他の費用として見積もっている。
|