本研究は、いわゆるノティス・アンド・デマンド法やクライム・ラボ改革をめぐる米国における議論と実態を踏まえながら、専門家証人に対する尋問手続、及び広い意味での証拠開示手続のあり方と、鑑定書等の証拠能力について検討し直すことを目的としてきた。 今年度は、その研究の最終年度として、前年度からの資料分析と聞き取り調査の結果をまとめた論文を執筆した。その中では、米国において、クライム・ラボの分析結果が、単なる数値的な読み取りではなく、分析者本人の解釈に依拠するものである以上は、被告人が要求する限り、その者への直接の尋問手続が憲法上必要とされていることを明らかにした。また、米国においてそのように証人尋問を要求する背景には、全米科学アカデミーの調査によって、クライム・ラボで用いられている法科学の「科学性」に対する疑いが明らかにされたこと等があるので、論文の中では、それをめぐる議論についても紹介し、中立的鑑定機関の設立等、クライム・ラボ自体の科学化をいかになしうるかについての提言の内容についても明らかにした。 さらに、米国においては、クライム・ラボの分析官に対する尋問の必要性と、分析官の負担の問題とのバランスをとるための制定法が工夫されているが、いずれにしても、被告人の憲法上の証人審問権を侵害しないためには、まずは鑑定過程全体の記録化や全面的証拠開示、弁護側の専門家確保のための方策や中立的鑑定機関の設立など、様々な前提条件をそろえる必要があることなどを明らかにした。 科学的証拠については、フライ基準などとの関連を超えた議論はあまり日本では行われてこなかったが、法科学の疑似科学性をめぐる議論等も踏まえ、また、証人審問権との関係も踏まえて、科学的証拠と専門家証人の尋問について総合的に検討出来た点ではそれなりの成果が得られたものと考えられる。
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