刑事手続において解明の対象とされるべき「核心的事実」とは何か、国民の抱くあるべき刑事手続像とは何か、またこの両者に懸隔はないか、仮にあるとしてそれにいかに対処すべきかを検討するという目的のもと、本年度も引き続き、大阪地方裁判所で開催される裁判員裁判に関する研究会に参加して得られた知見等も踏まえつつ、裁判員裁判を含む刑事裁判全般の運用の現状とその課題を独自に検討した。犯罪被害者との関係では、研究代表者も構成員の一人であった法務省の意見交換会が終了したが、そこで得られた知見をもとに、刑事手続に対する被害者のニーズや期待と刑事手続の事実解明機能とをいかに調和させるべきかについて、独自の研究を行った。さらに、取調べの可視化を含む刑事手続全般の改革に関する法制審議会特別部会の議論について、同部会の議事録及び最終取りまとめを具に検討し、刑訴法改正案の理論的正統性の有無及び今後の更なる制度改正の可能性を考察した。そのほか、諸外国の刑事裁判に関する文献資料を収集し、刑事手続の事実解明機能の在り方を、わが国と比較しつつ分析した。 本年度の特筆すべき具体的業績としては、訴因制度の解釈論をめぐる近時の学説を批判的に検討した論文、及び、法制審特別部会の議論に関連して、被告人に証人適格を認める制度の導入の是非を検討した論文と、取調べの録音録画制度の意義と問題点を考察した論文を公表したほか、前年度の研究の成果である、前科・類似事実の立証による犯人性推認に関する最高裁判例に対する評釈を公表した。 研究期間全体を通じ、捜査手続、公訴・公判手続、証拠法、少年審判という広い領域にわたって独自性のある研究を遂行し、その成果の一部を論文の形で公表する等して、上記の研究目的を達成できた。
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